「ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1927 - )」 現代チェリスト界の巨人ロストロポーヴィチはアゼルパイジャンのバクー生まれ、父はチェリストで母はピアニストでした。モスクワ音楽院でチェロを学び20代にしてモスクワ音楽院教授、1974年アメリカに亡命した後1977年ワシントン・ナショナル響の音楽監督。チェリストとしての名があまりにも名高いロストロポーヴィチですが、指揮も比較的早い時期から始めています。 ロンドンフィルハーモニー管弦楽団 (1979年 3月1,2日 ロンドン キングズウェイホール スタジオ録音) ロストロポーヴィチが本格的な指揮活動を開始した時期のEMIへの録音、直前に同じロンドンフィルを振ったチャイコフスキー交響曲全集を完成させ、ドヴォルザークは7,8番の録音もおこなっています。 豪放磊落、巨大なエネルギーが噴出しすぎて歯止めがかからなくなってしまったような演奏でした。 ゆっくりと大きな広がりを持った第1楽章序奏の開始、ティンパニトレモロは直前で大きくテンポを落しズシリとした重みを持った2段打ち、まるで横綱の土俵入りのような重量感。主部は大きくうねりながら重戦車の如くブラスが豪快に鳴り響きます。リピート有り。第2主題は大きくテンポを落し、ルバートをかけた後にアチェレランド。この第2主題はAAAA型の珍しいもの。 通常演奏時間12 - 3分の第2楽章は15分を超えるスローモー、まるで大きな釜の中にたっぷり溜まった油のように動きのない演奏でした。セカンドヴァイオリンとヴィオラの刻みを強調しながら弦楽器が切々と歌うMenoはさながらロストロポーヴィチの望郷の思いの自然な発露のようです。第3楽章も重い音楽。121−2小節の1,2ホルンの強調はコンドラシンと同じでした。 第4楽章第1主題前の8小節めの4分音符で大きなアクセントを付けテンポを落し、続く主題部分は2分音符をタァーンと長くのばし、弦楽器がべったりと弓を使った独特の歌いまわしを聴かせますが、これはいささかクサイ表現。105小節のティンパニではソ−ソ−ソをソ−ソ−ドに改変。嵐が過ぎた後の224小節で大きくテンポを落し226小節めを極端にのばしin tempoに突入、304小節で大きくタメをつくり305小節でfff爆発、最後の334小節はテンポを早めないスプラフォン版の形。 感情の起伏が大きいスラブ臭ムンムンの演奏でした。オケの鳴らし方がうまくロンドンフィルがまるでロシアのオケのように響きます。ただ表現したい内容があまりにも多くありすぎ、てんこ盛りとなってしまった結果、何が言いたいのかさっぱり判らなくなってしまった印象を持ちました。 今回聴いたのはEMIの国内盤LPです。この時期のEMI特有の薄い響きの録音。 (2006.01.18) |