「ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(1931 - )」 モスクワ生まれモスクワ育ちで母は歌手、父は国立ソビエト響の指揮者でありモスクワ音楽院の指揮科教授のアノーソフ。父から指揮を学び、ボリショイ劇場の指揮者を経て1961年からモスクワ放送響の首席指揮者。ストックホルムフィルやBBC響の首席指揮者を歴任。 ロジェストヴェンスキーのレパートリーは膨大なもので、バロック音楽からウィンナワルツ、現代作品まで実に多くの録音があり、彼のためにソビエト政府が組織したといわれるソビエト文化省響(現在自然消滅)を振ったショスタコーヴィッチの交響曲全集や様々な異稿を網羅したブルックナーの交響曲全集といった意欲的な録音も残しています。 「新世界より」は父のアノーソフの録音もあり、こちらは既に紹介しました。 ・ モスクワ放送交響楽団 (1973年 4月22日 モスクワ スタジオ録音) ヴィヴラートたっぷりのトランペットと色気の漂うクラリネット、ロシア色が濃厚のオケの響きですが、ロジェストヴェンスキーの解釈は正統的で都会的な洗練さを感じさせるもの。躍動感にも不足せず小さな山場を要所要所に配していて、聴き手を厭きさせない実に聴かせ上手な演奏でした。 第1楽章序奏のティンパニは2段打ち、AABB型のジムロック版使用。コントラバスが左側から聞こえるのでどうやら対向配置。ただヴァイオリンの掛け合いの妙は感じられません。他のモスクワ放送響との録音や1972年の来日時では通常配置だったような記憶がありますが、この録音は第1ヴァイオリンも左から聴こえるので、左右反転の製品事故でもないようです。 第4楽章91小節めのトランペットはソ−レの型。第3楽章231小節のフルートにトランペットを重ねていました。 前半2つの楽章こそ端正できちんと聴かせますが、自由なテンポの変化が特に第4楽章で顕著。オケを解放しブラスが吼えまくるこの第4楽章は金管奏者たちが陶酔しながら演奏している様子が目に浮かぶようです。 モスクワ放送響は実に優秀で、個別の奏者のレベルが非常に高い上にアンサンブルの精度も世界でトップクラス。中でも第2楽章の美しくも透明な弦楽器の響きが光ります。 しかし第3楽章の突出したトランペットは、いくらなんでもでしゃばりすぎ。 これが名演かと問われれば返答に窮してしまいますが、これほど完成度の高い演奏はめったにないと思います。 テンポを比較的自由に動かし第4楽章の160小節めからの加速する箇所などは父アノーソフと共通していますが、アノーソフがおこなっていた第1楽章のリピートや各所の改変はなく、父からの影響はあまりないようです。 今回聴いたのは、メロディアのライセンスを得てイタリアのリコルディが発売したLPです。音の輝きは鮮明ですが広がりに乏しい音像。 (2006.01.22) |