「新世界よりを聴く」88・・・マゼール

ロリン・マゼール(1930 - )

パリ生まれ、9歳でニューヨークフィルを振る。ピッツバーグ響のヴァイオリン奏者の後1958年に正式にデビュー。ベルリン放送響、クリーヴランド管、ウィーン国立歌劇場の総監督、ピッツバーグ響、バイエルン放送響などの首席指揮者を経て現在ニューヨークフィルの音楽監督。

マゼールの「新世界より」には以下の録音があります。

・ベルリン放送響     1966年     スタジオ録音
・ ウィーンフィル     1981年7月   ライヴ録音
・ フランス国立放送局管  1982年3月   ライヴ録音
・ ウィーンフィル     1982年11月  スタジオ録音
・ 北ドイツ放送響     1985年     ライヴ録音
・ バイエルン放送響    1994年     ライヴ映像
・ ウィーンフィル     2000年2月   ライヴ録音
・ ニューヨークフィル   2005年12月 ライヴ録音

この中で正規に発売されたのは1966年、1982年のスタジオ録音のみです。
他はかつてFMやテレビで放送されたことのある音源で一部海賊盤CDが出ています。

・ ベルリン放送交響楽団
(1966年     ベルリン  スタジオ録音)

ベルリン放送響の音楽監督として30代のマゼールがベルリン音楽界の一方の雄カラヤン&ベルリンフィルと競り合っていた時代のフィリップスへの録音。

この時代のマゼールの録音は思い切った解釈をストレートにぶつけた挑戦的な演奏が多く、特にバッハやヘンデル、ハイドンなどの録音は古典的な均衡の中に独自の解釈が素直な形で現れていて私自身はこの時代のマゼールが一番好きです。この「新世界より」の演奏も実にユニークな演奏に仕上がっていました。

第1楽章序奏ティンパニは1発打ち。スピーディな主部は前へつき進む爽快感が感じられ、第2主題はBABA型のスプラフォン版、ここに入る1小節前の4拍めでぐっとテンポを落とし第2主題のフルートがかなり意識してジムロックとの違いを強調しているのが今となっては可笑しく感じられます。173小節のチェロにトロンボーンを重ね、リピート有り。339小節目の2拍目のトロンボーンはオクターヴ下げていました。
テヌート気味の柔らかなコラールで始まる第2楽章は、速いテンポですっきりとしていますがかなり自由なテンポ変化を見せ、通常速めるUn poco meno mossoはむしろ遅く、54小節のpoco meno mossoは速いテンポ。Menoでは他の演奏ではあまり聴こえてこないヴィオラのトレモロを極端に強調させるなど、なかなか油断ができません。

第3楽章もアクセントを強調しながら攻撃的に進め、49小節からのの3,4番ホルンパートにトロンボーンを重ねて強調し、かなりハードボイルドな演奏となっていました。
リピート後もテンポを落とさず54小節のpoco sosutenuto直前で意表を突く突然の急ブレーキとルフトパウゼ、これには驚きました。176小節からの中間部の木管部は繊細な表情を見せて前後と大きな対比を聴かせ、271小節のフルートにトランペット重ねる。
ただコーダの276小節目でスビュートピアノからクレシェンドをかけるのはちょっとわざとらしが感じられます。

続く第4楽章はハリキリすぎて音楽が空回りしている印象。終結部328小節の主題が最後にユニゾン再現される部分で、一音一音をゆっくりアクセントを附けながらブツ切りで演奏、続くフォルティシモをブゥアーンと膨らましテンポを速めて終結させる部分は実演では興奮させるかもしれませんが、繰り返し聴く録音としては演出過剰だと思います。

挑戦的でありながら譜面に手を加えた部分が伝統的な改変だったりしてするのが面白く、才気煥発、怖いもの知らずでのびのびと自由に演奏しているところが気持ちの良い演奏でした。

今回聴いたのはユニバーサルから出ているCDで、ジャンドロンの弾く同じドヴォルザークのチェロ協奏曲とのカップリング。音としてはフィリップス系のふくらみのある聴き易い音でした。
(2006.02.03)