今回はマゼールの80年代の2つの演奏を紹介します。 ・ ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 (1982年11月 スタジオ録音) ウィーンフィルを自在にドライヴしていますが、旧盤のような大きな変化のない常識的な演奏でした。 第1楽章のゆっくりとした序奏は15小節目で急にテンポを速め、22小節のティンパニのトレモロは2段打ちのようですが残響が多くはっきりしません。 主部に入ってからの音を割ったホルン、経過主題99小節の第1ヴァイオリンの深い余韻はウィーンフィルならではの美しさ。第2主題に入る直前の148小節でわずかにテンポを落すのが個性的。第2主題はBABA型のスプラフォン版のようです。リピート有り。137小節のトロンボーンは旧盤と異なりチェロに重ねていませんでした。 312小節の経過主題が再現する部分では内声部のヴィオラを強調。終結部395小節のホルン強奏直前では大きなタメをつけて大きく盛り上がりながら最後まで走り抜けます。 第2楽章コラールのティンパニがpで入るのは、ウィーンフィルを振ったコンドラシン、小澤征爾盤と同じです。テンポの動きはあまりなく、menoでのチェロもさほど強くありませんでした。最後のコントラバスが消え入るようなpppの美しさが印象に残りました。 第3楽章は旧盤と異なりテンポの変化はほとんどなく進行。 快速な第4楽章は、主部の4拍めをすこしタメ気味でに引き摺るため停滞感を感じさせます。91小節のトランペットはウィーンフィル固有のソーレではなくはシー♯ファ。 この演奏の真骨頂はフィナーレのテンポ運びで、いろいろな版によって微妙に指定が異なる後半と終結部でマゼールは絶妙のテンポ運びで聴かせます。251小節のUn poco sosutenutoを速いテンポで進め、1番ホルンの跳躍部分から少しずつ速め続くストリジェンドで猛烈に加速、その後も微妙なアッチェレランドをかけながら終結部に突入、ホルンソリのリタルランドで一端251小節前のテンポに戻りますが、再び加速、終結部333小節めからたっぷりの長さで聴かせます。 旧盤と同一指揮者とは思えないほどの印象が変わりました。第4楽章の絶妙なテンポ運びに深く考え抜いたうまさを感じますが、旧盤で聴かれた意表を突く面白みは失われました。 ・ 北ドイツ放送交響楽団 (1985年 ライヴ録音) 基本の解釈はウィーンフィル盤と変わりませんが、NDRの重厚で豪快な音色とライヴならでは張り詰めた緊張感が魅力の名演。 第1楽章序奏ティンパニは2段打ちで、第2主題はBABB型でリピート有り、第2主題の直前のテンポの落とし方は82年盤と同じです。終結部395小節のホルン強奏直前のタメはこちらの方が大きく、素晴らしい盛り上がりを聴かせます。 第2楽章のコラールでのティンパニはこちらもp、木管群のUn poco più mossoの流れるような歌、続くクラリネットのPoco più mossoでもテンポ変わらず速いままで進みます。ウィーンフィル盤で聴こえなかったMenoのチェロの刻みの太く強調はこちらは復活。 第3楽章はストレートで大きな変化を見せず、Poco sosutenutoでもテンポは変わりません。中間部の木管の表情はこの盤が一番濃厚、リピート後の冒頭では幾分遅く失速気味に感じました。 力強く主題流れのよさを感じさせる第4楽章は91小節のトランペットの行進曲風な部分も快調でゴキゲンに飛ばします。後半のテンポ運びはウィーンフィル盤と同じですが、ずっと自然で違和感は感じられません。 甘すぎず辛すぎず、スコアの奥深い部分まで考え抜いた演奏ですが、ウィーンフィル盤よりも自然で説得力のある名演だと思います。 今回聴いたのは、おそらくFMからのエアチェックで裏青の海賊盤CD。 音質はごく標準的なステレオ録音。 (2006.02.17) |