「レクイエムについて、その成り立ちと構成
「レクイエムについて」

今回はレクイエムの構成と、その成り立ちについてまとめておきます。

カトリック教会が行う礼拝の儀式をミサと言います。
ミサは日曜やキリスト教祝日だけでなく、原則として平日も行なわれています。


ミサの典礼文には通常文と固有文があり、どのような場合にも必ず使われる典礼文を通常文といい、ミサの主旨によって変化する文を固有文といいます。

このミサに伴う声楽曲がミサ曲です。


ミサ曲は基本的に通常文をテキストとし、一般的に『キリエ』、
『グローリア』、『クレド』、『サンクトゥス』、
『アニュス・デイ』の5曲が作曲されます。


さらに祭日や「死者のためのミサ」などの構成が異なる場合には、
入祭唱(イントロイトゥス)、昇階唱(グラドゥアーレ)、
アレルヤ唱、続唱(セクエンツィア)、奉献唱(オッフェルトリウム)、
聖体拝領誦(コンムニオ)などの固有文が加わり、
古くはこの部分はグレゴリオ聖歌を使用していました。


「死者のためのミサ曲」のことをレクイエムと呼びますが、それは第1曲イントロイトス(入祭唱)の最初の歌詞、Requiem Aeternamから由来しています。




「死者のためのミサ」が成立したのはほぼ9世紀から10世紀頃と言われています。

当時のヨーロッパは政情不安に疫病の発生、飢饉が重なり,死生観も暗いものとなっていき、人は死んだら煉獄に落とされて激しい苦しみを強いられる,罪の償いをしなければならないという、煉獄説が広く信じられるようになりました.

このため、個人個人の死後の煉獄における罪の軽減を求めるための,「死者のためのミサ」が行われるようになっていきます。


このようにして始められた「死者のためのミサ」は、当初は公式に定められた典礼文も無かったため地域的に異なった形式で行われ、一般のミサとは異なった独特の形式として定着していきました。



やがて宗教改革が起きると、カトリック側であるローマ教会は1545 年にトリエントに公会議を召集し「対抗宗教改革」に着手します。


 この会議では中世に生まれた不純な典礼形式の多くが廃止されましたが、「死者のためのミサ」は、煉獄説を否定するプロテスタントに対抗するために逆に整備され、公式な典礼文が制定されました。


オケゲム(1410?〜1497)の『レクイエム』は、ポリフォニーで作曲された現存する最古のレクイエムとして有名ですが、トリエント公会議以前の、死者のためのミサの形式自体が統一されていなかった時代の作品で、現行のものとは形式的に異なっています。


16 世紀後半の作曲家ラッスス(1532〜1594)の5声のための「レクイエム」あたりからこの典礼文に従って作曲されています。



「レクイエムの構成」・・・・・・・・・トリエント公会議以後

Introit (Requiem Aeternam):入祭唱       固有文

Kyrie eleison:  主よ、あわれみたまえ     通常文

昇階唱 (Graduale)                固有文

アレルヤ唱または詠唱 (Tractus)        固有文


Sequentia     続唱             固有文
   
   怒りの日 (Dies irae)
   奇しきラッパの響き (Tuba mirum)
   恐るべき御稜威の王 (Rex tremendae)
   思い出したまえ (Recordare)
   呪われたもの (Confutatis)
   涙の日 (Lacrimosa)  (Pie Jesu「主イエスよ」を含む)


Offertorium :奉献唱              固有文
     主イエス・キリスト (Domine Jesu)
     賛美の生け贄と祈り (Hostias)


Sanctus –                  通常文
     聖なるかな (Sanctus)
     祝福されますように (Benedictus)


Agnus Dei:「神の小羊」           通常文


Communion (Lux aeterna):聖体拝領唱「永遠の光」 固有文
              死者のためのミサだけの固有のテキスト


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Responsorium 赦禱文(Libera me:「我を許し給え」)  通常ミサにはない
In Paradisum:「楽園(パラダイス)へ」       通常ミサにはない



以上の中で昇階唱 (Graduale) 、詠唱 (Tractus)はオケゲム以後、著名なレクイエムでは作曲されていません。


また、葬儀のミサが終わると司祭は引き続き最後の審判における寛大な裁きを求める祈りを唱えます。

そこで歌われるのが、赦禱文(Libera me:「我を許し給え」)で、
棺が運び出される時に歌われるのがIn Paradisum:「楽園(パラダイス)へ」です。


フォーレやロパルツ、デュリュフレらフランス系の作曲家によるレクイエムにはこの2曲が作曲されています。


このようにカトリック教会の公式な典礼の中で定着していった「死者のためのミサ」ですが、
1962〜1965年のヴァチカン公会議の結果、
「死者のためのミサ」そのものが廃止され、典礼としての「レクイエム」は終焉を迎えます。


次回は代表的な「レクイエム」について紹介します。





(2016.09.19)