新「第九を聴く」13・・・戦前派巨匠の時代IX トスカニーニその4

・ NBC交響楽団、ウエストミンスター合唱団
S)J.ノヴォツナ A)K.トルボルク T)J.ピアース Bs)N.モスコナ
(1939年12月2日 NBC カーネギーホール ライヴ録音)

トスカニーニがNBC響を振った4つある「第九」録音の2番目の演奏。1937年12月のNBC響との初演奏会から丸2年が過ぎ、NBC響はトスカニーニの手足として実に敏感に反応しています。速いテンポで強靭にしてしなやかな歌、トスカニーニの第九に対するアプローチのスタイルがこの頃に固まったようです。

第一楽章冒頭の第一ヴァイオリンはテアトロコロン盤と同じくテヌート気味。53,103小節にティンパニ付加。130小節めで僅かにテンポを落とします。冒頭回帰の直前160小節付近では他の演奏が直前から減速するのに対して1拍前に僅かのタメを見せて再現部に突入。オケは実に優秀で133小節の第一ヴァイオリンの速いパッセージも完璧。
194小節からの木管楽器のみの部分は柔らかな響きで聴かせ、300小節からの盛り上がりでも冷静に進行します。416,501小節の第一ヴァイオリンは一オクターヴ上げていました。512小節の裏拍をfp気味にし、終盤へ向かってラストスパート。539小節めで僅かなタメを作り終結。

第二楽章はリピート全て実施、第2主題にホルンを重ねているのは他のトスカニーニ録音と同じ。第三楽章では65小節からのAndante Moderatoで木管の微妙な揺れを下で支えるヴァイオリンの動きが印象的。

第四楽章序奏部でチェロとコントラバスに小節の頭の拍に大きなアクセントを付け否定の意志を強調。続く「歓喜の主題」の表情豊かで気品に満ちた歌は実に素晴らしいものがあります。
Poco Adagioで大きくテンポを落とし、続くフルオケによる序奏は地響きをたてるような凄まじさ。動きの大きな203小節のPoco ritenenteを経てバリトン独唱の登場。
バリトンソロは232小節で歌詞のfreundeを二つに分け、323小節から遅くなるかなり自由な歌唱。独唱も合唱も、オケの楽器の一パーツとしてバランスよく反応していますが、合唱が横に流れ気味でメルトダウンしているような響きのため、発音がはっきりせず歌詞が不明瞭なのが気になりました。

A lla marciaからのオケのみの間奏部分に突入するテンポ変化はBBC盤やテアトロコロン盤のような唐突さはなく再度「歓喜の歌」に回帰する前の減速も自然。
Andante maestosoの合唱を短くアクセントを付けながら切り気味に歌わせていました。
冒頭部分のトランペットはワインガルトナー型の加筆、805,826小節にティンパニのクレシェンド付加、二重フーガのトロンボーンは合唱に重ねています。

今回来たのはDanteから出ているCDです。当時はまだテープ録音が一般化される以前でそれなりの音ですが、BBCとテアトロコロンの録音と比べると良好の部類。
ただしノイズをかなりカットしているようで、合唱の歌詞の不明瞭さはそのあたりに原因があるかもしれません。
(2007.01.04)