新「第九を聴く」14・・・戦前派巨匠の時代IX トスカニーニその5
・ NBC交響楽団、カレッジナイト合唱団(R.ショウ合唱指揮)
S:A.マックナイト、A;J.ホブソン、T:I.ディロン、Bs:N.スコット
(1948年4月3日 NBCスタジオ 8H ライヴ映像)

NBC放送による10回のテレビシリーズ中の映像で客を入れてのスタジオライヴ。トスカニーニの主要なレパートリーが実際の映像で見ることが出来る貴重な遺産です。

オケは古典的な対向配置で木管は倍管、ホルンはアシ付5本、弦楽器は14型のようです。合唱は50人ほど、ゴスペルシンガーが着るような法衣に似た服装で着席したままトスカニーニを指揮台に迎えますが、パート別に分かれず男女混合で10数人ずつ3段に並びます。このような合唱の配置は初めて見ました。
第三楽章の前から入場するソロ歌手たちが指揮者のすぐ前に立つために、小柄なトスカニーニが立つ指揮台は通常より高いものを使用。照明がかなり強烈のようで、トスカニーニは大汗状態、楽団員の中にはサングラスをかけている人もいます。

トスカニーニの指揮は拍をきっちり振り分けた実にわかりやすい棒です。スパッスパと快刀乱麻をたつ勢いで、あの棒ならばあのような直截な音しか出ないだろうという趣。
オケは非常に優秀で整然と同じ動きを見せる弦楽器のボウイングが圧巻です。

第一楽章の81小節めからの加速が他の演奏よりも速く、終盤のホルンソロからしだいに加速。ただ300小節からの大きな盛り上がりではチェロの音が突出していたのが気になりました。
第二楽章も竹を割ったようなストレートの直球勝負。第2主題にホルンを重ねていて、この部分でホルンセクションのアップ。リピートは全部実施。

第三楽章は速いテンポで指揮は大きく二つ振り。歌わせどころでチェリストだったトスカニーニが自ら左手でヴィヴラートをかけるようなしぐさをするのが印象的。

第四楽章序奏は大きく1つ振り、「歓喜の歌」が登場する部分では、チェロの方向に向き、自身が架空のチェロを弾いているしぐさそのままで歌わせます。
独唱者はオケの楽器の一部として無表情に歌っています。合唱が登場する部分ではトスカニーニも大きく口を開けて歌い、キメ所ではぐっと右手を前へ突き出すのが印象的。二重フーガから次第に白熱し、興奮の頂点でトスカニーニの左手はあたかもチェロの指盤を触れてヴィヴラートをかけるような仕草を見せていました。

張り詰めた緊張感に満ちた素晴らしい指揮と演奏でした。今回見たのはTestamentから出ているDVDです。モノクロ映像で多少のザラツキはありますが、演奏家の表情と雰囲気は充分に伝わってきます。トスカニーニの右斜め方向のカメラが上半身を捉え、演奏者全体と要所要所で楽器とソリストのアップ。音楽とうまく同調していて事前に周到な準備が重ねられたことを伺わせます。

このシリーズはかつてソニークラシカルからLDで出ていて、手元の何枚かと比べると画質は多少向上、音は多少ステレオプレゼンスを加えていて聴きやすくなっていますが、LDのがっしりとした音にも未練が残ります。
(2007.01.07)