新「第九を聴く」15・・・戦前派巨匠の時代X ワルターその2
・ ウィーンフィル、ウィーン国立歌劇場合唱団
S:H.ギューデン、A;E.ヘンゲン、T:E.マイクート、Bs:G.フリック
(1955年11月13日 ウィーン国立歌劇場 ライヴ録音)

第二次世界大戦で破壊されたウィーン国立歌劇場再建記念演奏会のライヴ録音。当日はブルックナーのテ・デウムも演奏されています。いわば特別な状況下でのコンサート。巨匠ワルターを迎えての演奏者の熱気と意気込みがストレートに聴き手に伝わってきます。

ただ最近ピリオド系の演奏やトスカニーニに代表される速いテンポの演奏ばかりを聴き続けていたためでしょうか、重いテンポで荘重な第一楽章の開始を聴いた瞬間「あぁ古いなぁ」というのが第一印象です。

「うん!」というワルターの気合で始まるスピード感あふれる第2楽章とウィーンフィルの弦楽器群の嫋々たる美音が楽しめる第3楽章などなかなかの聴きものですが、両端楽章で音楽が停滞する瞬間があり、曲全体を通じて老ワルターの緊張感の持続にムラが感じられました。

重々しい開始第一楽章は16小節目で一瞬タメを効かせフォルティシモ。130小節から140小節かけてさらに減速、展開部に入り218小節からは、コントラバスの小節の頭にアクセントを付けるのが特徴的。301小節の嵐のように荒れ狂う部分から加速。416,501小節の第一ヴァイオリンは1オクターヴ上げ、537小節からはフルート、オーボエにトランペットを重ねていました。
第ニ楽章は一転して速いテンポ。第2主題のホルンは木管に重ねず、リピートはトリオのみ。273小節から2小節間ティンパニは四分音符を三連音符に改変。

第四楽章序奏のトランペットは木管に重ね「歓喜の主題」の始まる前に長い休止、弱音から徐々に楽器が加わる部分でのヒューマンな歌い上げはワルターの独壇場。ヴァイオリンの咽び咲きのようなヴィヴラートも効果的でした。
続く声楽部分では遅めのテンポのため、バスソロが充分に歌いきれていない印象です。193小節めから加速。ギューデンのソプラノソロからさらに加速。Vor Gott!の後は長い休止でAlla marciaに突入。オケのみの間奏部分504小節の2拍めで急に緊張感がとぎれる瞬間があり、一瞬はハッとさせられます。
Andante maestosoの合唱は量感たっぷり。ただし635小節からの「ah-nest」から合唱のソプラノの誰かがヴィヴラートかけまくりで突出してしまっています。興奮したのでしょうか。二重フーガではトランペットは合唱の音型に重ねる型。
ソロアンサンブルのAllegro non tantoはかなり遅く、最後のPoco allegroから俄に速くなり猛烈に煽り立てて終わります。

力のあるオケ、ソリスト、合唱が三位一体となった全力投球の演奏ですが、遠い時代の歴史的な過去の記録というある種の距離感が終始消えませんでした。トスカニーニやフルトヴェングラーを聴いた時には現在との演奏スタイルの差はあまり気にならないのですが。

今回聴いたのは、オーストリア放送局が収録したテープをOrfeoがCD化したもの。家のメインの装置で聴いたときは音楽の重要な部分が飛んでしまったかのような精気のないのっぺりとした音に聞こえ、特に合唱はかなり遠くから響いていました。

ところがCDウォークマンで聴き直してみるとさほど悪く感じられません。リマスタリングが小型の装置を想定しているのではないでしょうか。オリジナルテープの音質はもっと良いのではないかと思います。
(2007.01.09)