新「第九を聴く」2 ピリオド系の指揮者たち ・・・・ノリントン
「ロジャー・ノリントン(1934 -      )」

イギリス、オックスフォード生まれ、ケンブリッジのクレアカレッジで英文学を学ぶかたわら聖歌隊に属していた。王立音楽院でサー・エードリアン・ボールトから指揮を学ぶ。
1962年、ハインリッヒ・シュッツ合唱団を結成。
1969年、ケントオペラ音楽監督(1982年まで)
1975年、ロンドン・バロック・プレーヤーズを結成、
      ロンドン・クラシカル・プレーヤーズに発展
      (その後、エイジ・オブ・エンライトメント管に吸収)
1997年、カメラータ・アカデミカ・ザルツブルク首席指揮者
1998年、シュトウットガルト放送響首席指揮者
一時癌に倒れましたが克服し復帰、今年の11月にN響定期に登場予定。

・ ロンドン・クラシカル・プレーヤーズ、
  ロンドン・シュッツ合唱団
 S:  Y.ケニー A: S.ウォーカー T:  P.バワー Bas: P サロマ
 (1987年 2月   ロンドン スタジオ録音)

ピリオド楽器による初めてのベートーヴェン交響曲全集中の一枚。この第九もピリオド楽器による初録音となりました。軽いノリでネアカなノリントンの音楽。ここでも深刻さとは無縁の軽くサラリとしたベートーヴェンが響いています。

1987年といえばベーレンライター版が出版される10年前のことです。ヴィヴラートなしの透明な響きと軽快なテンポ運び、従来のベートーヴェンのイメージとは次元の異なる音楽に発売当初は大変な話題となりました。

基本的な使用譜はブライトコップ版が底本となっているようです。したがってベーレンライター版でD音だった第1楽章81小節目のフルート、オーボエの跳躍はB♭で吹かせ、第4楽章の歓喜の歌の再現前の1,2番ホルンの音型も聴き慣れたブライトコップ版の音が続きます。
第1楽章では249小節からティンパニの16分音符を強調、300小節めからのトランペットとティンパニの2分音符は16分音符に改変。

第2楽章でも352小節のティンパニをトランペットと同じに改変、遅いテンポのトリオは、古楽器を用いた木管楽器が素朴で鄙びた良い味を出していました。トリオ突入前のPrestoは遅いテンポなのが特徴的。
515小節め再現部前の木管楽器はスタッカート強調しコミカルな雰囲気を演出。279小節のティンパニは小節の頭にアクセントを付けヴァイオリンの動きを強調ざせていました。

速いテンポのすっきり系の第3楽章は4番ホルンソロが実に見事。名手ハルステッドの仕事でしょうか?
第4楽章はチェロとコントラバスの雄弁さがものを言っていますが、各楽章の主題が再登場する部分ではパウゼもなしでストレートに始まるのが素っ気無い印象です。
バリトンソロの「テーネー」はG−F、このバリトンソロのテヌート気味の歌い方は演奏全体のスタイルの中では異質な趣です。321小節の2分音符を短く切りVor Gottのフェールマータもあっさり短めに終わり、間を空けずa lla marciaに突入。
a lla marciaはブライトコップ版と同じメトロノーム表示の符点4分音符=84のテンポで進行(ベーレンライター版は倍テンポの符点2分音符=84)。ピッコロソロが入る部分からはさらに遅くなります。これはまさにトルコ軍楽隊の有名なマーチ「ジュッティン・テディン」のテンポ。なぜか大太鼓はほとんど聞こえず。
テノールソロ後のオケのみの間奏も遅いテンポ。歓喜の歌再現を導入する1,2番ホルンは聞き慣れたブライトコップ版と同じ型でした。
続くAndante Maestosoは少人数で引き締まったアンサンブルの合唱が良い響きを出していました。670小節からのフーガにトロンボーン付加。最後のPrestissimoも通常よりも遅いテンポ。

誰もやったことがないことを初めておこなう者の強みで、発売当初は世間に大きな衝撃を与えたと同時に一部で拒絶反応もあったと記憶しています。しかし今の耳で聞くと穏健な印象、ごく当たり前な解釈に聴こえます。
(2006.10.14)