・シュトウットガルト放送交響楽団、ゲヒンゲン・カントライ S: C.ニルント、A: I.フェルミリオン、T: J.カウフマン、B: F.J.ゼリーク (2002年 9月8日 ボン・リーダーハレ ライヴ録音) ヨーロッパ音楽祭のライヴ録音。ノリントン2度目のベートーヴェン交響曲全集の第一弾となった録音です。合唱はかつてリリングが率いていたゲヒンゲン・カントライ。 モダン楽器のオケ、シュトゥットガルトの放送響はこの演奏会ではナチュラルトランペット、細管トロンボーンを使用し対向配置を採用。 第1楽章冒頭の弦楽器の刻みで拍の頭を強調、再度冒頭の部分が回帰する時には強調控えめでクレシェンド・デクレシェンド強調という細かさを見せます。63,64小節で4番ホルンのアクセント強調。81小節のフルート、オーボエは旧盤と異なり、ベーレンライター版と同じD音。 220小節からセカンドヴァイオリンの刻みを強調しつつ300小節めからは一拍目にアクセントをつけながら大きく盛り上がります。この部分では低音弦楽器の威力が物を言っていて混沌とした雰囲気を良く出していました。419小節でわずかなルバートを見せ最後の小節はちょいと間をおいて終了。 ティンパニの炸裂が小気味良い第2楽章はリピート全て実行。190小節からはティンパニの合いの手のホルン1拍目にアクセント付加。木管楽器が良く歌うトリオは旧録音ほど遅くなく、ごく普通のテンポ。後半は4小節ごとの1拍目にアクセント付け前へ前へとひたすら前進。最後のプレストは速いテンポでサラリと終結。 ヴィヴラートを排した清潔な叙情を感じさせる第3楽章は、テンポ変化の妙で聞かせます。43小節のTempo Iはぐっとテンポを落とし、雰囲気をがらりと変えます。66小節のAndante moderatoは速めのテンポで移行。 4番ホルンのソロでは、跳躍する直前の90小節の1拍めの低いB♭を省略する実演ならではの安全運転ですが、聴いたかぎりではナチュラルホルンを使用している気配は感じられません。後半119小節からさらにテンポを上げff突入。 第4楽章は歓喜の主題の入りをはじめとして、旋律の変わり目は間を置かずスルリと開始。テンポは速いが各楽器はきっちりと正確に弾いています。バリトン導入部の全合奏によるプレスト冒頭のffをブウワーンと膨らませるのが印象的。 Alla mariciaは旧盤に比べると速くなりました。ここではセカンドトランペットの合いの手が突出気味。旧盤で聴かれたテンポの大きな落差はありませんが、テノールソロ後のオケのみの部分は強弱の差が明確。530小節からの1,2番ホルンの合唱への導入はベーレンライター版に準拠せずブライトコップと同じ。 Andante maestosoは合唱もオケもアクセントを強調し、はっきり明確に一音一音を切る歌唱。650小節からのuber Sternenのピアニシモでは、ティンパニのトレモロに小節の1拍目毎にアクセントを僅かに付加し緊張感を演出。続く二重フーガもオケも合唱も整然とした各声部が明解に鳴り響く見事なもの。 速めいテンポの763小節からのAllegro ma non tantoは、男声の歌詞「Freude」を「Tochter」に変更。843小節からのPoco allegroの弦楽器の導入はテヌート気味で開始し次第に加速し、終盤のPrestissimoは遅めのテンポでしっかりとした終結でした。 バリトンソロをはじめとした若手の独唱陣は、スケールは小さいものの粒が揃いよくまとまっています。合唱も少人数ながら歌詞をはっきりと発音する丁寧で正確な歌い口に好感が持てました。 演奏の解釈は旧盤とさほど変わらぬものの、細部までさらに深く研究した演奏という印象です。筋肉質のベートーヴェンですが、自然な呼吸と颯爽としたテンポ運びで音楽に生命感が満ちていて、旧盤よりも良いと思います。 (2006.10.21) |