新「第九を聴く」6 ピリオド系の指揮者たち3・・・ガーディナー
「ジョン・エリオット・ガーディナー(1943 - )」

イギリスのドーゼットシャー生まれ、15才にしてプロの合唱指揮者として活躍、サーストン・ダートとナディア・ブーランジェに師事。1964年にモンテヴェルディ合唱団、1977年にイギリス・バロック管を創設し、古楽器によるさまざまな優れた演奏を残しています。1990年にはロマン派の音楽の演奏を目的とした古楽器によるオルケストラ・レヴォルショナル・エ・ロマンティークを結成、ベルリオーズの一連の録音は大きな話題を呼びました。
1983年からリヨン歌劇場の音楽監督、北ドイツ放送響の首席指揮者を歴任、古楽器のみならず、モダンオケを振った多くの録音もあります。

・オルケストラ・レヴォルショナル・エ・ロマンティーク、モンテヴェルディ合唱団
S)L.オルゴナリーヴァ、A)A.S.オッター、T)A.R.ジョンソン、B)G.カシュマイユ
(1992年10月 ロンドン ブラックヒースホール スタジオ録音)

アルヒーヴへの交響曲全集録音中の一枚。使用楽器はベートーヴェン死後初の第九の再演となったアブネックとパリ音楽院管による演奏会で使われた19世紀はじめのスタイルの楽器と奏法を採用。
シャープで現代的な快演、60分を切る演奏時間ですが、ザンダーのような不自然さは感じられないのは芸格の差でしょうか。

オーケストラも極めて優秀、第1楽章の132小節からのノンレガート指示部分の第1ヴァイオリンの速いパッセージや、第4楽章最後の4小節を木管群がスラーなしで鮮やかに駆け上がる部分など実に見事なものです。
ベーレンライター版出版前の演奏ですが、第1楽章50,56小節4拍めのフルートのオクターヴ上げや81小節のフルート、オーボエがD音、30小節のトランペットとティンパニが16分音符など、ベーレンライター版のアイディアの多くが既に採用されています。解説もジョナサン・デル・マールが執筆。

第2楽章はトリオの自然な躍動感が秀逸。リピート有り、198小節でティンパニはp、352小節はトランペットに重ねますが503小節からの弦楽器の動きはスラーのないブライトコップ版と同じ。この楽章で活躍するティンパニはアクセントではなくディミヌエンドの余韻を聴かせています。

第3楽章はノリントンやブリュッヘンらの演奏と比べると遅いテンポで、モダンオケの演奏とさほど差は感じられません。むしろヴィヴラートを廃した室内楽的な透明さが清潔な雰囲気を演出。

第4楽章序奏の歓喜の主題では95小節めの3拍めの二分音符を四分音符として短く切り上げ4拍目を休符としていました。この解釈はガーディナーのみで聴かれる表現です。
A lla marciaは付点二分音符=84のテンポ。この速さはフランス軍隊の駆け足のテンポでしょうか。これはザンダーとほぼ同じテンポですが、ザンダーの演奏で感じた唐突感はありません。525小節の1,2番ホルンの経過句はブライトコップ型。
合唱は、はっきりとした発音とパート間のバランスも完璧な歌唱を聴かせます。Andante maestoso646小節目では「wohnen」nenの部分ですーと力を抜くのが印象的。

二重フーガは遅いテンポで進行。後半部分の充実はめざましく、緊張感を増しつつ終末になだれ込む素晴らしい展開を聞かせます。最後のPresitissimoはPrestoのテンポでした。
独唱者、合唱もオケの奏法に合わせたかっちりとした演奏を聴かせています。その結果、モダン楽器使用に比べ各楽器固有の個性が明確に浮き彫りになり、各所で聴かれる付点音符のリズムも明快となりました。ピリオド楽器で聴かれる最上の名演だと思います。

(2006.11.19)