新「第九を聴く」7 ピリオド系の指揮者たち4・・・・・インマゼール
「ジョス・ファン・インマゼール(1945 - )」

アントワープ生まれ、ケネス・ギルバートにチェンバロを学び、1973年パリ国際ハープシコードコンクール優勝。鍵盤楽器奏者として名を上げ、1987年ピリオド楽器による室内管弦楽団アニマ・エテルナを結成。自らの弾き振りでモーツァルトのピアノ協奏曲全集を完成。バロック、古典派のみならずロマン派にも手を広げ、チャイコフスキー、ラヴェルやR.コルサコフの管弦楽曲の録音もあります。

・アニマエテルナ&合唱団
S)M.N.ド・カラタイ A)M クリース t)G.シーベルト B)U ベストライン
(1999年5月 アントワープ St.Carolus Borromeus church スタジオ録音)

1998年から二年越しのベートーヴェン全交響曲チクルスの最後となった録音。
オケの編成は弦楽器40名、管・打楽器23名、合唱は43名で、ベートーヴェンの時代に可能な限り近づけたピリオド楽器使用。ピッチは440Hz。

ベーレンライター出版後の録音で、解説はジョナサン・デル・マール。第1楽章81小節のフルート、オーボエがD、第4楽章535小節のホルンのシンコペーションなど、ベーレンライター版をきわめて忠実に再現。しかしながらテンポ設定は比較的遅めで、聴き慣れたブライトコプ版に近いものがあります。
細部にまで神経を張りめぐらした繊細な演奏ですが、力強さにも不足しないどっしりとした安定感に満ちた名演でした。

第1楽章35小節めではホルンのアクセント強調、440小節から同じフレーズの繰り返しでは2回目の弦楽器にスタッカート付加。
第2楽章はリピート全て励行、強奏部分でのホルンのストップ奏法とティンパニの強打の掛け合いが凄まじく、ベートーヴェンの音楽が極めて前衛的に聞こえて来ます。トリオは中庸のテンポで平和な印象。

第3楽章も速すぎず一般的なテンポ。ロマンティックで厚い響きの第4楽章では、巨大なフォルティシモの中で低音を支えるコントラファゴットの響きが印象的。
即興的なバリトンソロに絡む木管楽器も美しく響き、合唱が加わった頃から落ち着いたテンポで歌詞を明確に表現。260小節の歌詞の「streng geteilt」で弦楽器と合唱にアクセントを付け強調。330小節の「フォー・ゴーット」の延ばしは短めに切り上げ、続くAlla marciaも速めながら安定したテンポで快適に進み、テノールソロに合唱が加わった後、オケのみの間奏部分の直前429小節めでわずかながらテンポを落とします。

二重フーガは遅く雄大な出来、途中679小節めでティンパニを二段打ちを強調。
Allegro ma non tanto767小節からのテノール、バリトンソロの歌詞は、「freude」を「Tochter」の繰り返しに改変。
843小節からのpoco allegro stringendoでのティンパニの強打がきわめて雄弁で、最後の8小節間のティンパニの怒涛の連打は強烈でした。

いかにもピリオド楽器で演奏しているという学究肌な演奏とは一線を画す演奏で、今まで聞き慣れていたブライトコップ版の演奏に近い印象を受けました。それでいて細部がベーレンライター版に忠実なのが凄いと思います。
録音は教会の残響を適度に取り入れた優秀な音でした。
(2006.11.27)