新「第九を聴く」8・・・・ラトル
「サイモン・ラトル(1955 - )」

リヴァプール生まれ、打楽器と指揮を学び1974年ジョン・プレイヤー指揮者コンクール優勝。1980年からバーミンガム市交響楽団の芸術監督に就任。2003年からアバドの後任としてベルリンフィルの芸術監督。

・ ウィーンフィルハーモニー管弦楽団、バーミンガム市立響合唱団
S)B.ボニー A)B.レンメルト T)K.ストレイト Br)T.ハンプソン
(2002年4、5月 ウィーン ムジークフェラインザール ライヴ録音)

ベートーヴェン交響曲全集中の一枚。ラトルとウィーンフィルは、前年の来日公演でベートーヴェンの交響曲全曲演奏をおこない伝統あるウィーンフィル相手にピリオド奏法を採用した演奏として大変話題になりました。

テレビでこのチクルスの模様が放送された時は、スリムな編成と対抗配置が印象に残っています。確かティンパニもウィーンフィルが通常使用しているものよりも小型の古いタイプの楽器を使用していたように思います。19世紀に使用されていた古いタイプの楽器と演奏スタイルを伝承しているウィーンフィルが18世紀のスタイルで演奏しているというところが注目のポイント。

ベーレンライター版にほぼ忠実、弦楽器は極力ヴィヴラートを抑え軽めの響きとし、ティンパニのアクセントもディミヌエンドを意識するなど、ピリオド奏法を採用しています。しかし、さほど徹底されているようには聞こえず、発するサウンドはウィーンフィルの音そのものです。ラトルの解釈もテンポを揺らし、各所でタメや大きな間を取りながら進めるロマンティックなものでした。

遅いテンポで終始する第一楽章は26小節のヴァイオリンをテヌートで弾かせ、テンポを揺らしながら横に音楽が滔々と流れていきます。
301小節の盛り上がりの直前でタメを作り、中間部のフォルティシモでも常に透明度の高い響きを維持しているのが印象的。327小節のティンパニにクレシェンド付加。340小節からの木管楽器のフレーズでテンポを落とし、360小節から加速、427小節からはコントラバスのピチカートを強調させながら再びテンポを速め、演奏全体に大きな躍動感を生み出していました。
510小節から終結部にかけて再びテンポを落とし、曲の終止で大きくテンポを落とすのは18世紀の演奏スタイル。

第二楽章は、古典的な端正さとロマン的なダイナミックな表現が大きな軋みを立ててぶつかるスリリングな演奏。リズムの躍動感はまさにスウィングするベートーヴェン。
第三楽章25小節からのAndante Moderatoはウィーンフィルの気品に満ちた弦楽器の美しさに圧倒されます。43小節の第一ヴァオリンの装飾音も明確。終結部はテンポを落としロマンティックな締めくくりを聴かせていました。

第四楽章序奏ではチェロとコントラバスが表情豊かに響き、29小節1拍めのコントラバスのテヌートも印象に残ります。91小節の後、歓喜の主題が登場する直前の大きな休止はフルトヴェングラーの演奏を思い起こさせます。続くオーケストラによる「歓喜の歌」では弦楽器とファゴットのバランスも良く感動的に盛り上がります。
独唱ではバリトンのトーマス・ハンプソンがパンチのある歌唱を聴かせ、レチタティーヴォの232小節近辺でアドリブで装飾音を付け、聴いていてはっとさせます。
ラトルがこの録音のために呼び寄せたアマチュア合唱団、バーミンガム市立合唱団は260小節の「streng geteilt」や745小節の「Bruder」の歌詞をアクセント気味に強調。
アンサンブルは荒削りながら、アマチュア独特のひたむきさで聴き手に熱い感動を誘います。

フォー・ゴット!の後長いパウゼの後、ゆったりとしたAlla marciaに突入。429小節から加速しオケのみの間奏に突入。続くAndante maestoso、二重フーガも雄大なできばえでした。
終盤は845小節で大きな休止、祝祭的な気分が盛り上がる中で最後のPrestissimoもじっくり聴かせていましたが、890小節からのピッコロの異様なほどの強調はあまりにも唐突。
ベーレンライター版を使用し、ピリオド奏法を採用した演奏ですが、解釈の根底はフルトヴェングラーやトスカニーニら往年の巨匠の解釈に共通するものがあります。いわば最新の研究成果と20世紀初頭から21世紀にかけての様々な演奏スタイルの集大成ともいえる演奏でした。

今の段階でこの演奏が最上のものであるかは多少の疑問が残りますが、これからの第九の演奏スタイルを示唆する記念碑的な演奏だと思います。
(2006.11.29)