今回はハンス・シュミット=イッセルシュテット最後のコンサートのライヴ録音。 指揮者とオケが一体となった白熱の名演。 今回はイッセルシュテット最晩年のライヴ録音。西ドイツのアルティアがハンブルクの放送局に残っていた放送用ライヴを発掘した交響曲全集中の一枚。この演奏会の一週間後にイッセルシュテットは急逝してしまいます。 イッセルシュテットはブラームスについて特別な思いがあり、来日時のインタヴューで 「チャイコフスキーやドヴォルザークは、どこの国のオーケストラでもそれなりの水準で演奏できるが、ブラームスはドイツの音楽家たちでなければその本質をついた演奏は不可能である」と言っています。 ・北ドイツ放送交響楽団 (1973年5月21日 ハンブルク ムジークハレ ライヴ録音) イッセルシュテット自らが育て上げた北ドイツ放送響の熱い響きと確信に満ちた指揮に圧倒される名演。テンポを自由に動かしたファンタジーあふれるロマン派としてのブラームスの一面を強調した演奏。 柔軟なテンポ運びで表情豊かな第一楽章冒頭から旧盤と大きく異なります。第一ヴァイオリンが同じフレーズを繰り返す2回目の37小節めでチェロとバスを強調し第2主題の始まる55小節からテンポを大きく落とします。 145小節からは内声部の第2ヴァイオリンを大きく浮かび上がらせ、再現部に向かう277小節直前の絶妙な間も見事。即興的なテンポの変化にもピタリとつけるオケも見事、指揮者のブラームスに寄せる共感がオケにも乗り移り後半の盛り上がりは感動的です。 羽毛のように軽やかな第二楽章前半の弦楽器のピチカートにほのかな寂寥感が漂い、88小節からはヴィヴラートたっぷりの弦楽器群の豊かな響きに乗ってロマンティックにブラームスを熱く歌い上げます。92小節からバスのラインを強調し深い響きを演出。 緩急の変わり目の鮮やかさも見事な速いテンポの第三楽章は、聴いていてわくわくして来るような躍動感にあふれ、最後の小節でゆっくり間を取りながら第四楽章に突入。 第四楽章冒頭シャコンヌは5小節目でテンポをぐっと落とし、タメを作りながら大きくクレシェンドを効かせる様はあたかも巨大な龍が天に上昇するが如し。 第5,6変奏で加速し音楽は熱気を増しながらうねるように進行。各変奏の有機的な繋がりも見事で94小節目からの第11変奏では、弦楽器と木管楽器のタイミングを微妙にずらし緊張感を演出する時間差攻撃。 第16変奏でテンポを落とした後、第17変奏で加速しながら音楽はますます巨大に膨れ上がります。一時沈静化する部分の136小節では一拍目のトロンボーンのsfを強調。193小節から始まる第24変奏の同じパターンの繰り返しに微妙な変化を付けるのも名人の域。 イッセルシュテットの職人芸が極めて高度な水準で結晶化した大変な名演でした。オケも指揮者への絶大な信頼の上に一致団結、鉄壁のアンサンブルで熱い演奏を繰り広げます。聴いていて鳥肌が立つほど感動したのはフルトヴェングラー以来の経験です。 今回きいたのは日本フォノグラムから出ていたLPです。残響豊かな聴きやすい音ですが、ライヴ録音の制約のためか各楽器の分離はさほど明確ではありません。 (2008.01.20) |