「ブラームスの4番を聴く」43・・フランス系の指揮者たち2 クリュイタンス
アンドレ・クリュイタンス(1905 - 1967)

ベルギー、アントワープ生まれの名指揮者。祖父の代からの指揮者の家系で、他に親族に3人名の知られた指揮者がいたそうです。アントワープ王立フランス歌劇場常任指揮者の父から音楽教育を受け15才で王立歌劇場の合唱指揮者、22才にして王立フランス歌劇場常任指揮者。その後トゥルーズ歌劇場、リヨン歌劇場、ボルドー歌劇場、パリ・オペラコミークの音楽監督を歴任。1955年には初めてバイロイト音楽祭に登場。
一方コンサート指揮者としても、1943年からパリ音楽院管絃楽団の指揮者陣に名を連ね1949年から1963年までパリ音楽院管絃楽団の常任指揮者。

クリュイタンスにはベートーヴェンの交響曲全集やワーグナーの管弦楽曲録音のスタジオ録音がありますがブラームスは大変珍しく、私が知る限りでは今回紹介する交響曲第4番とルービンシュタインをソリストに迎えたピアノ協奏曲第2番のライヴ録音のみです。いずれも正規音源ではなくCD−Rの海賊盤。
クリュイタンスの唯一の来日となった1964年のパリ音楽院管との公演ではブラームスの交響曲第4番を2回取り上げています。

・ フランス国立放送局管弦楽団
(1958年2月 18日    ライヴ録音)
レモンライムのような爽やかに横に流れる叙情的なブラームス。クリュイタンスの意図は遅いテンポで重厚なブラームスに仕上げることにあるようですが、あくまでマイペースを貫こうとするオケと噛みあわず、結果的に無国籍の中性的な演奏となりました。

第一楽章冒頭は遅いテンポで開始。各楽器が明快に鳴り響くものの音楽に推進力に欠け、数歩進んでは立ち止まるような迷いが感じられます。
76小節目のアクセントをテヌート気味に流し展開部前で大きなパウゼ。301小節からテンポを速め、76小節と同じパターンの320小節めではさらに大きな減速でテヌート。このあたりから緩急の差が大きくなり、ようやくクリュイタンスのペースとなってきました。終盤402小節めから急速に追い上げ大きなクライマックスを構築。最後の5小節でぐっと落として終結。

第ニ楽章冒頭ホルンがいきなり不揃いでフランスオケのアンサンブルのアバウトさが露呈。木管楽器のみとなる部分は軽いフランス風の管の美しさが際立ちます。第2主題のチェロの澄んだ美しさが印象的。55小節からのフルート、クラリネット、ファゴットが同じ音型で上昇する部分ではフルートが絶妙のバランスでヴァイオリンに繋げます。88小節からの聴かせどころではじっくりとバスを強調。終結部110小節の長大なクラリネットソロ下の第一ヴァイオリンも実にうまく付けていました。

ヴィヴィッドでカラフルな第三楽章の後、第四楽章冒頭はヴィヴラートをたっぷり効かせたブラスが輝かしく鳴り響きます。第4変奏のヴァオリンはじっくりヴィヴラートで纏綿と歌い第7変奏ではテンポをぐっと抑えます。第13変奏のフルートソロは詩情あふれる歌いまわしと絶妙な間で傑出、名手デユフレーヌでしょうか。第16変奏前のフェルマータは今まで聞いた中では最長。この第16変奏の付点二部音符が極端に長いのも特徴的。終盤の第26変奏で大きく加速しライヴらしいクライマックスを演出していました。

際立った名演というわけではありませんが、聴き終わった後に一抹の清涼感が感じられる不思議な演奏でした。

今回聴いたのはPASSION&CONCENTRATIONというCD−Rの海賊盤です。明らかにラジオのエアチェック録音でモノラル。途中で大きな雑音も入りますが、比較的各楽器は明瞭に捉えられています。
(2008.02.11)