シューリヒトの2回目はフランス国立放送局管とのライヴ録音を紹介します。 ・フランス国立放送局管弦楽団 (1959 3月24日 ライヴ録音) 即興的な展開を見せながら速めのテンポでオケを自在にドライヴし、オケと聴衆を熱狂の坩堝へ導くシューリヒトのライヴ。この時点でシューリヒトは80近い年齢ですが老いの気配は全く感じられません。 第一楽章冒頭アウフタクト後の第1拍めのソの音が極めて短いがために、2分の2拍子が3拍子のように聞こえて来たのには肝をつぶしました。思わずこの部分だけを聴き直してしまいましたが、何度聴いても3拍子の感覚で音楽が流れています。シューリヒトがどのような振り方をしたのか興味深いところです。 後のスタジオ録音で聴かれた17小節目第1拍のアクセントはなし、145小節からの冒頭回帰の部分も同じようですが不自然さは感じられませんでした。 182小節のリタルダンドと再現部前の227小節めから弦楽器と木管との対話のデリケートな美しさはスタジオ録音と同じ。332小節の大ブレーキも印象的。394小節の巨大なクライマックスでのテンポの落とし具合はスタジオ録音よりも自然。続く終盤へ向けての怒涛の加速も見事なもの。 飄々と速いテンポで進む第二楽章は、第2主題のチェロとヴァイオリンの絡みがフランス系の軽めの響きとともに美しい効果を上げていました。終結部102小節めに入る前の長い間はこの盤のみの解釈。 第三楽章は第2主題の軽妙な明るさが印象に残ります。オケは完全にノリノリ状態で後半から熱く燃え上がりながら第四楽章へ突入。 一気に突き進む第四楽章は、第13変奏のフルートソロ前の4小節でゆっくりとテンポを落としチェロとコントラバスのピチカート強調。ここでの見事なフルートソロは名手デユフレーヌでしょうか。 ヴィヴラートたっぷりのトロンボーンのコラールから始まる後半では、第16変奏直前の極めて長いパウゼに思わず息を呑みます。続く133小節3拍目の第一ヴァイオリンの雪崩落ちるような崩し方も名人芸。第28変奏(225小節)で大きくテンポを落として木管楽器の冒頭回帰の後、第30変奏でインテンポで動くコントラバスの下降音型が暴走寸前の疾走の中で大きな安定感を与えていました。この第四楽章後半の白熱の盛り上がりは、フルトヴェングラー盤と双璧。 天才的な閃きと即興の妙で聴かせるスリリングな名演でした。オケはフランス系の軽く爽やかな響きですが音に秘められた緊張感は尋常でないものがあります。完全に興奮状態に陥っているオケに対し、シューリヒトは冷静に音楽の行く先を見据えています。まさに釈迦の掌中で踊る孫悟空。 今回聴いたのは、1991年にイタリアのMelodramから出ていたCD(CDM 18048)と、クロアチアのVirtuosoから出ていたシューリヒトのブラームス録音を集めた4枚組CD。 Virtuoso盤は多少ステレオ効果を付加していますが、音にふらつきがあり寝ぼけた鈍な音でした。これは細部が明瞭で芯のあるMelodram盤が圧勝。 (2007.05.30) |