「ヘルマン・アーベントロート(1883 - 1956)」 アーベントロートの2回目は、晩年の放送録音を紹介します。 ・ライプツィヒ放送交響楽団 (1954年12月8日 ライプツィヒ 放送録音) ライプツィヒ放送局が収録していた聴衆なしの放送用録音。 頑固一徹の無骨な古武士の味わい。ザラリとしたオケの音がさらにその印象を助長しています。激しいテンポの動きは、ブラームスの生きていた時代の演奏様式である「マイニンゲンの伝統」を伝えたフリッツ・シュタインバッハの影響でしょうか。 第一楽章冒頭は比較的速いテンポで開始、88小節からのいきなりの加速と展開部の入りでテンポを突然遅くするのはかなり唐突。195,199小節の木管楽器の冒頭の音型が異様に長く、これは227小節の再現部前で再び拡大された形で繰り返されます。再現部は遅く開始して286小節からしだいにアチェレランド。加速は止まらず、まるで追い立てられているかのようです。 素朴な開始の第二楽章は41小節からの第2主題のチェロがたっぷり嫋々と歌うのが印象的。後半88小節から異様に遅いテンポとなり、クラリネットとファゴットソロが入る前の102小節めでヴィオラを強調しながらますます遅く、歯止めが利かぬまま110小節のインテンポ指定のクラリネットソロでさらに遅くなり、音楽は奈落の底に落ちていきます。 第三楽章では一転して目の覚めるような鮮やかな速いテンポで聴かせます。第二楽章のスローなテンポは第三楽章への伏線だったのでしょうか。旧盤で聴かれた再現部前の168小節の大ブレーキはなし。180小節のpoco meno prestも速く、278小節のアクセントの生々しさも印象に残ります。 第四楽章では、音楽に勢いが加わる第4変奏2拍目の強いアクセントが特徴的。オケの音色は暗めであるものの流れる音楽は軽い感覚で流れます。 ところが第10変奏直前のフルートソロのフェルマータの後、管楽器のフォルテで冒頭が回帰した直後、133小節の弦楽器の下降音型の強烈なアクセントでガラリと音楽の雰囲気が変わります。一転、音楽は荒れ狂い緊張感を漂わせながら進行。第24変奏193小節の直前の大きなタメのあとのフォルティシモも凄まじく、第30変奏のカノンでは大きなアクセントで大地をえぐるような深い響きを獲得しながらフィナーレに雪崩れこんでいました。 アーベントロートは、演奏の出来にムラがあるタイプのように思います。この演奏も前半二つの楽章と後半とでは演奏の感銘度に大きな落差があります。さらにマックス・フィードラーの演奏に一面通じる、譜面とかけ離れた大きなテンポの変化があまりにも大時代的なものにも感じました。 ともあれこのスタイルは、シュタインバッハの死とともに絶えてしまったと言われている「マイニンゲンの伝統」の片鱗を垣間見させてくれる貴重な演奏なのかもしれません。 今回聴いたのは徳間音工から出ていたドイツシャルプラッテン原盤の国内CDです。放送録音からのCD化で比較的聴きやすい音質。 (2007.06.13) |