「ブラームスの4番を聴く」21・・・戦前派巨匠の時代7 クレンペラー
「オットー・クレンペラー(1885 - 1973)」

クレンペラーには3種の録音があります。

・デンマーク王立歌劇場管  1954年  ライヴ録音
・フィルハーモニア管    1956年  スタジオ録音
・バイエルン放送響     1957年  ライヴ録音

・フィルハーモニア管弦楽団
(1956年11月 1957年3月 ロンドン、キングズウェイホール スタジオ録音)

EMIへの全集録音中の一枚。ステレオの全集としては最初期の録音です。
スピーディにして横に流れる美しさとドラマティックさの共存、オケのメロウで品格の漂う純な響きと緻密なアンサンブルも印象的な名演。

対向配置のヴァイオリンの美しい掛け合いで第一楽章が始まります。怒鳴りまくりのクレンペラーのリハーサルからは想像できない語りかけるような穏やかな表現で音楽は進行。220小節めのオーボエの心優しい表現も印象的。272小節からテンポを揺らし終盤の400小節からは猛烈な加速。

軽めに淡々と進めた第二楽章は、第2主題の54小節目から微妙にテンポを速め、音楽の流れに変化が出始めます。各所で聴かれる一糸乱れぬヴァイオリンの息の長いフレージングには、美しい響きとは裏腹に影で相当厳しい練習があったことが想像されます。
第三楽章は、5小節単位で音楽が進行する中で5小節目の直前で大きなタメを聴かせるのが特徴的。316小節の大きなパウゼはあたかも巨大なブラックホールのよう。

巨大な巌のような第四楽章は、第一変奏の深くうごめく不気味な管楽器の響きに導かれ、悲壮感を漂わせながら弦楽器が歌います。各変奏の緻密なに描き分けも実に見事。113小節からのコラールから音楽は劇的に展開。荒れ狂うホルンの咆哮を挟み演奏は狂気を漂わせながら終結にひた走ります。最後の小節は短く断ち切るように終結。

なおこの録音の途中で、クレンペラーの夫人が心臓発作で死去したため録音の中断を余儀なくされています。随所で垣間見られる哀愁と孤独感は、このことが影を落としているのかもしれません。

今回聴いたのはアビーロード・テクノロジーによる外盤CDです。滑らかで口当たりの良い美しい響きですが、クレンペラー独特の頑固でデモーニッシュな部分を多少薄めているようにも思えました。
(2007.06.21)