「ブラームスの4番を聴く」22・・戦前派巨匠の時代7 クレンペラーその2
クレンペラーの2回目はコペンハーゲンでのライヴを紹介します。

・デンマーク王立管弦楽団
(1954年1月28日 コペンハーゲン チボリ・コンサートホール ライヴ録音)

500年を超える歴史を誇るデンマーク王立歌劇場のオケ客演時のライヴ。同オケ記念BOX中の一枚です。このセットには当日演奏された、「レオノーレ」序曲第3番、交響曲第29番(モーツァルト)も収録されています。

脳腫瘍、骨折、精神病扱いにより仕事を干されるなど、エトセトラ・・・多くの苦難が降りかかるたびに不屈の精神力で復活したクレンペラー。1954年といえばEMIの名プロデユーサー、ウォルター・レッゲと知り合い、翌年にはフィルハーモニア管の首席指揮者となるクレンペラー晩年の充実した活動期に入る直前の演奏です。

第一楽章冒頭から速いテンポで開始。オケのアンサンブルは多少粗いが、やる気充分の気合は充分伝わってきます。このオケのトランペットのボテっとした古めかしい音は独特のもの。展開部前136小節での大きなタメを見せ168小節から次第にテンポを速めます。内声部のホルンを強調しつつ、じわりじわりと音楽に勢いと熱が帯び、後半379小節からの見事な高揚感、403小節からの猛烈な加速も印象的。

力の入った第二楽章は洗練さに欠けるものの、このような健康的な解釈も良いものだと思います。88小節からのじっくりとした歌い上げも見事。
クレンペラーのウン!という気合で開始する第三楽章は、5小節ごとにタメを作るのは後のスタジオ録音と同じ解釈。第2主題も速めのテンポであっさり進めますが、後半224小節から完全にプッツン状態となり猛然と加速しながら疾風怒濤の進撃の開始。281小節からのタタミかけるド迫力は凄まじいものがあり、この第三楽章の興奮の余韻を残したまま第四楽章を迎えます。

第四楽章は、大きな広がりを持った冒頭コラールに続き、地響きを立てて迫りくる第一変奏はマグマがたぎるような物凄さ。指揮に引きずられてそれまで懸命に突っ走っていたオケですが、さすがに疲れが見え始め第13変奏のフルートソロが終盤で息切れ状態。
16変奏前のフルートの下降音型後は、晩年のシューリヒト盤に匹敵する長い休止。そして続く17変奏でのブラスの冒頭主題の強烈なフォルシモから恐怖のクライマックスを迎えます。速いテンポで次々とたたみかけるフォルティシモの猛烈な迫力。169小節のティンパニのクレシェンドも凄まじく、オケも猛然と奮起し灼熱のフィナーレを迎えていました。

とにかく指揮者とオケの気合の入りは凄まじく、これほど熱くなったクレンペラーの演奏は珍しいと思います。巨匠のひと睨みで奮い立ったオケの健闘も見事なもの。

今回聴いたのは、デンマーク王立管の記念BOX10枚組CDです。音は1950年代相応の音質で多少高音にきつい部分もありますが、楽器の分離もよく、鑑賞にはさしつかえないものでした。なおTestamentからも同じ演奏が出ていて、こちらは同じデンマーク王立管を振った1957年ライヴの「エロイカ」とのカップリング。
(2007.06.25)