「ブラームスの4番を聴く」23・・・戦前派巨匠の時代8 フルトヴェングラー
「ウイルヘルム・フルトヴェングラー(1886 - 1954)」

J.Huntのフルトヴェングラー・ディスコグラフィー第6版によると、現在存在が確認されている録音としては以下の6種類があり、いずれもライヴ録音です。

・1943年12月12日 ベルリンフィル
・1948年10月22日 ベルリンフィル
・1948年10月24日 ベルリンフィル
・1949年 6月10日 ベルリンフィル
・1950年 8月15日 ウィーンフィル
・1951年10月21日 ウィーンフィル (未発売)

また、1948年11月3日のロンドン・エンプレスザールでの第4楽章後半のリハーサル映像も存在します。

・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1948年10月24日 ベルリン ティタニアパラスト ライヴ録音)

ツバメが目の前をスーっと滑空していくような冒頭の神秘的な開始で名高い演奏です。どのような棒でこのような音が出てくるのか全く想像がつきません。
緩急自在なテンポとダイナミックスの変化で聴かせるデフォルメの極ともいえる演奏ですが、不自然さを感じさせず聴き手に大きな感銘を与えるのがフルトヴェングラーの偉大なところです。

第一楽章冒頭ではヴァイオリンの開始の素晴らしさもさることながら、自由に呼吸するコントラバスの変化にも注目。展開部の加速に自然に乗るティンパニのフォルテのタイミングも素晴らしく、木管楽器の心優しい表情から272小節のテンポの落とし加減も絶妙。終盤408小節からの音響の本流に押し流されそうな巨大なクライマックスも印象的です。

第二楽章では、30小節めから緊張感に満ちた凄みのあるピアニシモで聴かせるヴァイオリンの旋律が次第に発展し壮大なフォルテまで成長していく過程が実に見事。第2主題のチェロの安らぎに満ちた表情と88小節からの深いヴィヴラートで聴かせるベルリンフィルの強力な弦楽セクションの響きも圧倒的。最後の小節では、二つめの4分音符を一拍めよりも長めに取り深い余韻を獲得していました。

軽い間奏曲風の第三楽章は177小節の弦楽器を長めに引き伸ばし、続くホルンソリ前199小節めのテンポプリモの前の休止も雄弁。ヴァイオリンに同調する321小節からのティンパニの音色の多彩さは、縦に刻む点ではなく横に流れるラインのティンパニ。これはおそらく名手ティーリヘンが叩いていると思います。

第四楽章では第4変奏のヴァイオリンをヴィヴラートたっぷりで聞かせ、第6奏からしだいに加速。息詰る後半は寄せては返す大きなテンポ変化の波状攻撃。209小節からの第26変奏の音を割ったホルンの咆哮も凄まじく怒涛の終結を迎えていました。

あたかも名人の舞を見るような凡人には思いもよらない変幻自在なテンポとダイナミックの変化の妙。それでいて音楽は自然に呼吸しているまさに神技の域に達した名演。

今回聴いたのはCD初期に出たEMIの国内盤CDです。フルトヴェングラーのライヴとしては比較的良好な部類。

(2007.07.07)