「ブラームスの4番を聴く」24・・・戦前派巨匠の時代8 フルトヴェングラーその2
・ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(1948年10月22日 ベルリン ダーレムゲマインデ ライヴ録音)

EMI盤の二日前にベルリン郊外のダーレムゲマンデでおこなわれた聴衆なしの演奏。これを当時の自由ベルリン放送局が収録していました。なお10月24日の演奏会はRIAS(西側占領地区放送局)の収録。
1948年はソ連による西ベルリン封鎖が始まった年でした。そのために第2楽章の途中で、西ベルリン側に物資を空輸していると思われる飛行機の爆音が聞こえてきます。

二日の違いとはいえ24日の演奏とは聴いた印象は異なります。深く暗いオケの音と多めの残響、強弱とテンポの緩急の落差は二日後の演奏ほどではなく比較的落ち着いた雰囲気が支配。

第一楽章では27小節4拍めヴァイオリンのスタッカートの雄弁さが印象的。この楽章後半は24日の演奏よりも早めの385小節から加速が始まり、408小節でひとつの頂点を築きます。
第二楽章では、ホルンの入る部分23小節めからゴォーという飛行機の爆音が聞こえます。30小節からのヴァオリンの旋律の歌わせ方も雄弁ですが101小節のクラリネットソロはかなりの重々しさ。

第三楽章も鈍く鈍重に進行。24小節2拍目のリズムと37小節のバスを強調。199小節のTempoTはさすがに重すぎると思います。
第四楽章は第11変奏でややテンポを速めます。フルートソロが終わった直後の絶妙な間と、次の変奏に入る部分のテンポの落とし方は神技の域。後半も素晴らしい盛り上がりを聞かせますが、次第に音量を増すオケに当時の録音技師が恐れをなしたのか、僅かずつ録音レベルを落としてしまい終結部のホルンの咆哮が聞こえずクライマックスが不発となったのが残念。

今回聴いたのはディスクレフランのCDです。各楽器の響きは明瞭でしたが多少ピッチが低いようにも感じられました。全体にダークで鈍い印象なのはこのためかもしれません。

なお、このCDには1945年1月23日のブラームスの交響曲第1番第4楽章のライヴがカップリングされています。これはフルトヴェングラーとベルリンフィルによる大戦中最後の演奏会の記録で、前プロのモーツァルトの交響曲第40番の演奏中に空襲による停電により演奏会が中断されたという有名な演奏会です。
迫りくるドイツ帝国の崩壊、異様なほど大きく間を取りつつ進行する後ろ髪を引かれるような尋常でない演奏に、これが最後の演奏会であることを感じ取っていた演奏家と聴衆の気持ちが直に伝わってくるドキュメントです。演奏終了後にしばらく間を置き、ポツリポツリと始まる拍手も印象的。


・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1948年11月2日 ロンドン エンプレスホール リハーサル映像)

第4楽章後半、トロンボーンによるコラールの部分から終結部までのリハーサル映像です。当時のニュースフィルムでしょうか、楽員はみな私服。フルトヴェングラーが怖い顔で振り払うような動作で周囲を静かにさせる部分から映像が始まります。

静かで深いトロンボーンのコラールから一転して熱狂的な終結部に突入する静から動への転換の鮮やかさが実に見事。リハーサルとはいえ全身全霊を傾けて全力で飛ばすフルトヴェングラーに楽員の顔も真剣そのもののです。映像も鮮明、カメラワークも秀逸。フルトヴェングラーの熱狂的な指揮ぶりを捉えたものとしては最もインパクトの高いものだと思います。
(2007.07.21)