「ブラームスの4番を聴く」29・・・ストコフスキー その2
「レオポルド・ストコフスキー(1882 - 1977)」
今回はストコフスキー晩年の二つの録音を紹介します。

・ニューフィルハーモニア管弦楽団
(1974年6月17、21日 ロンドン、ウォルサムトウホール スタジオ録音)

RCAへのスタジオ録音。作品への愛情とブラームスの深い畏敬の念が感じられる名演。

素っ気ないほど速いテンポで始まる第一楽章冒頭。17小節めのオーボエソロが入るあたりで微妙にテンポを落としますが再び加速し第一主題の展開を経て弦楽器の美しさが際立つ第二主題が印象的。
91小節のテンポの落としもナチュラル、快適なテンポで曲は進行するも終結部に入り394小節から猛烈な加速が始まり、今までの冷静な音楽運びが急転直下熱狂の渦に巻き込まれます。これがストコフスキー一流の演出でしょうか。最後の2小節で大きなブレーキをかけ終結。

第二楽章冒頭部分は淡々と聴かせるものの、88小節めのpoco espressivoでは弦楽器を纏綿と歌わせます。98小節からのティンパニはほとんど聞こえず。
はちきれるような躍動感に満ちた第三楽章は、飄々とした軽みも感じさせますが音楽は枯れていません。

第四楽章シャコンヌは、大バッハを常に取り上げてきたストコフスキー芸術の集大成のような巨大な演奏。9小節めから4小節間は弦楽器のピチカートーをアルコに改変し劇的な効果を演出。第四変奏の弦楽器のむせび泣きのような歌を経て17変奏後半から次第にテンポを速めます。緊張感を漂わせながら若々しい推進力でオケを引っ張っていく様はとても90の齢を超えた老人の音楽とは思えませんでした。

オケは通常配置のようです。ストコフスキーの録音には豊麗な響きを得るための楽器編成やダイナミックスに加筆する場合もありましたが、次第に手を加えるのは控えめになっていったようです。


・ニューフィルハーモニア管弦楽団
(1974年5月4日 ロンドン、ロイヤルアルバートホール ライヴ録音)
1909年、パリでの指揮デビュー以来60有余年。ストコフスキーの長い芸歴のほぼ最後の公開の場での演奏会記録。録音は死の直前1977年4月まで続けられました。

当日は、クレンペラーの「メリーワルツ」、ヴォーン・ウイリアムスの「タリスの主題による変奏曲」、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」、そしてブラームスの交響曲第4番が演奏されています。

スタジオ録音と基本の解釈は変わりませんが、巨大なロイヤルアルバートホールでの残響の多さのためでしょうか両端楽章は多少遅くなっています。

速いテンポで直裁な音楽運び、第一楽章はスタジオ録音よりもテンポは揺れ動き、終盤の加速もより過激で最後に拍手が沸きあがります。
第三楽章第2主題のテンポの落としはスタジオ録音よりもこちらのほうが自然。290小節からの熱狂と興奮も見事。

第四楽章はまさに巨大なゴチックの建造物。9小節めからの弦楽器はこちらもアルコ。
80小節デクレシェンドでの木管と弦楽器の減衰のバランスが絶妙。169小節からわずかに加速し230小節からの壮大な盛り上がりではパンチの効いたトロンボーンが凄まじい音を出していました。

生涯最後の演奏会といった感傷的な雰囲気は皆無。まだまだヤルゾ!といったストフスキーの心意気が伝わってくる演奏です。管楽器はおそらく倍管、弦楽器も増員している可能性があります。響きは厚いものの音楽が重くならないのはさすがだと思います。

今回聴いたのはBBCクラシクスのCD。残響が多く細部が不明瞭でした。じっくり聴くにはスタジオ録音が良いと思います。
(2007.09.22)