「エルヴィン・フィエルシュタート(1903 - 1983)」 オスロ生まれ、オスロ音楽院でヴァイオリンを学んだ後ベルリンで指揮をクレメンス・クラウスに師事。オスロフィルのヴァイオリン奏者を経て1932年指揮デビュー、ノルウェイ国立放送響、ノルウェイ歌劇場首席指揮者を歴任。1962年から1969年までオスロフィルの首席指揮者。オスロ音楽院の教授。 フィエルシュタートの活躍の場は、ほとんどノルウェイ国内に限られ、録音もLP初期にTONO原盤によるマーキュリーやウェストミンスターに、サルゼドやハルボルセンの管弦楽曲などがありましたが、復活の兆しもなくその芸風の全貌は知ることは困難です。 メジャーレーベルでは、デッカに録音した「ペール・ギュント」組曲、シベリウスのヴァイオリン協奏曲伴奏などの北欧物がCDで健在、他にLP期に「驚愕」とモーツァルトの交響曲第40番、米キャムデンにフランクの交響曲がありました。 ・オスロフィルハーモニー管弦楽団 (録音年月日不詳 スタジオ録音) 60年代にリーダースダイジェストから出た、家庭オーケストラ名曲集のセットもの中の一枚。フィエルシュタートはブラ3の他に「未完成」を担当。 いわゆる入門者向けの企画物名曲集でありながら、ブラ3や「ライン」などの凝った選曲。指揮者は他にレイヴォビッツ、ボールト、ギブソン、バジーレの面々、しかもイタリアの伝説的なホルンの名手チェカロッシの「ジークフリートのラインへの旅」、トロンボーンのクロボカールの参加した「ボレロ」など、よくもこれだけのマニアックな実力者を集めたものです。 このフィエルシュタートのブラームスは、早いテンポの中、ロマンティックにして清潔な品格の漂う名演でした。これは隠れた名盤。 第1楽章182小節目以降のスパッとした明快さ、リピートなし。第2楽章の深い思い。 劇的な要素も必要にして十分、第3楽章で主題が入れ替わる部分のチェロとヴァイオリンの絶妙のバランス変化など、フィエルシュタートが並の指揮者でないことを如実に物語っています。 両端楽章の複雑な絡みも見事な迫力、ティンパニの強打もタイミングばっちりで心地よく決まっています。終結部改変あり。 各所でハッとさせる部分があり、聴いていて飽きることがありませんでした。 オケのほの暗い音色のオスロフィルも健闘。ローカルさを感じさせないインターナショナルな名演です。 録音も細部まで明快で、艶の有る響きの良い録音です。聴いたのはモノラル盤でしたが、オリジナルはたぶんステレオ。 「パーヴォ・ベルグルンド(1929 - )」 ヘルシンキ生まれ、シベリウス・アカデミーでヴァイオリン、ピアノ、作曲を学ぶ。 フィンランド放送響のヴァイオリン奏者を経て、ヘルシンキ室内管を組織し指揮活動に入る。フィンランド放送響、ボーンマス響、ヘルシンキフィル、ストックホルムフィル、デンマーク王立管の音楽監督、首席指揮者を歴任。 ベルグルンドはシベリウスの3つの交響曲全集をはじめとしたシベリウスのスペシャリストとして有名ですが、ショスタコーヴィチにも名演を残しています。 ・ヨーロッパ室内管弦楽団 (2000年 5月 バーデンバーデン フェスティバルホール スタジオ録音) Ondineレーベルから出たブラームス交響曲全集中の1枚 ここのところベルグルンドは新たな境地に到達したようで、ヨーロッパ室内管を降ったユニークな録音をいくつか残しています。 これは小編成のオケで、弦楽器のヴィヴラート少なめの古楽器の奏法を取り入れた画期的な演奏でした。これはある意味作曲者の理想とした演奏だと思います。 室内オーケストラの透明で見通しの良い響き、優秀な管楽器群、第1楽章第一主題から、主題を支える低音弦楽器群のシンコペーションが実に鮮やかに響きます。 古典的なヴィヴラートなしの弦の響きには牧歌的なのどかささえも感じられます。 リピート有り。 第2楽章は、1拍目にテヌートきみのアクセントをつけるクラリネットソロが特徴的。 弦楽部分はカルテットを聴くような精密さです。 第3楽章のホルンソロにつけるフルート強調は珍しいですが、これが実に美しい。 第4楽章も表情豊かで自然、ここではピンポイントアクセントのトランペットが印象的。 81小節目の8分音符や、142小節目の対位法的な弦楽器の部分での独特な弦楽器のテヌートなど、ヴァイオリン出身のベルグルンドこだわりのボウイングが各所で聴き取れます。149小節のクライマックスもスリムであっさりの響き、後半292小節のコラールで大きな間を取るのも特徴的。 オケは当然対抗配置ですが、ソフトフォーカス気味の録音のためはっきりせず、 聴いてしばらくするうちに気が付きました。 (2005.05.21) |