「クルト・ザンデルリンク(1912 - )」 東プロイセンのアリス生まれ、 ベルリン市立歌劇場の副指揮者となりクレンペラー、ブレッヒ、フルトヴェングラーらに教えを受ける。1935年ナチスを嫌いロシアへ移住。以後ロシアでの活動が中心になります。 モスクワ放送交響楽団のアシスタントの後、ハルコフ・フィルハーモニー首席指揮者、 ムラヴィンスキーと並びレニングラードフィル第一指揮者その間レニングラード音楽 院指揮科教授。戦後ベルリン交響楽団(旧東ドイツ)の音楽監督、 ドレスデン国立歌劇場首席指揮者。ベルリンのポストを離れた後はフリーとなり各地を客演。2002年引退。シュテファンとトーマスの二人の息子も現在指揮者として活躍中。 私がザンデルリンクを始めて聴いたのは1973年のドレスデン国立歌劇場管来日公演のテレビ放送でした。確かブラームスの交響曲第1番だったと思います。(最近このブラ1を含む来日公演の大部分がCD化されました) 正直なところテレビに映ったザンデルリンクは、せかせかした指揮ぶりのただのおじさんに見えました。当時の私は同時期にNHKホールの柿落としのため来日したカラヤン&ベルリンフィルの方に関心が行ってしまい、ザンデルリンクの幾分地味で渋い芸風が理解できなかったのだと思います。 ザンデルリンクのブラ3は3種の録音があります。 ・ドレスデン国立歌劇場管 1972年 スタジオ録音 ・ベルリン響 1990年 スタジオ録音 ・ベルリンフィル 1992年 ライヴ録音 はじめの二つは全集録音、ライヴは裏青の海賊盤。 ・ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 (1972年3月15、18日 ドレスデン ルカ教会 スタジオ録音) ザンデルリング最初の交響曲全集中の1枚。ちょうどこのコンビの来日公演と発売が重なり、かなりの評判となった盤。私は前記のような理由で実際に聴いたのはかなり後になってからです。 ずしりとした伝統の重みオケと、ザンデルリンクの懐の深い音楽造りで実に聴き応えのある名演でした。 第1楽章120小節目ティンパニのズドドドンという強打も心地良く決まり、182小節以降の盛り上がりでもヴィオラ、チェロのズシリとした響きが腹に応えます。リピートなし。 第2楽章の詩情豊かで深い響き、第3楽章はチェロの旋律に絡むヴィオラの雄弁さが印象に残り、139小節からの最後の旋律は始めよりも長く音価を取るのが特徴的。 長い余韻を持って始まる第4楽章は、149小節での大地を深く抉るベースの響きに乗って雄渾な盛り上がりを見せます。第2主題でのチェロの熱い響きも素晴らしいものでした。終結部改変なし。 自然体で奥の深い落ち着きのある素晴らしい名演でした。木の肌のぬくもりを感じさせるオケの渋い音色が実に魅力的です。ホルンの名手ペーター・ダムのソロはこの盤が最高で、有名な第3楽章以外でも、第1楽章再現部の最初で弦楽器のシンコペーションに乗る箇所など、壮大な夕映えを見るような美しさでした。 今回聴いたのは70年代に発売された国内盤LPです。暖かで柔らかな音色ですが細部が多少不明瞭。 ・ベルリン交響楽団 (1990年 ベルリン イエス・キリスト教会 スタジオ録音) 再録全集中の録音、こちらも旧東独系の渋い響きながらドレスデンのオケよりも幾分粗い硬質な感触です。遅いテンポの悠然とした大きな音楽の流れの中に、そっと身を任せたくなるような名演でした。 第1楽章は、深い響き、ゆっくり流れる時間の中に大海原の寄せる波を連想させる自然体。リピート有り。32,34小節のデクレシェンド部分では冒頭アクセントを付け、スーと力を抜いていくのが印象に残り、181小節ではホルンの強奏、冷静でいるようでいて、底に熱く燃えるものを感じさせます。 遅いテンポ中で、ザンデルリンクの指揮に反応するオケとの一体感をますます感じさせます。 第4楽章では、テヌート気味の第2主題で多少勢いが削がれるような鈍さを感じました。90小節目のアクセントもテヌート,105、246小節のホルンはユニゾンからオクターヴに改変。 穏やかに流れているようで、ピリッとした緊張感が漂う巨匠の至芸を堪能しました。 ただ完成度は新盤が優れるものの、私は旧盤のドレスデンのオケに、より大きな魅力を感じます。 (2005.05.26) |