「ブラームスの3番を聴く」10・・・初期の録音2 ワインガルトナー 
「フェリクス・ワインガルトナー(1863 - 1942)」
来日しN響(当時は新響)を指揮したこともあるワインガルトナーは、オデッサ生まれ、リストと、シューマンの弟子であるライネッケの教えを受けています。ウィーン宮廷歌劇場の総監督、ウィーンフィルの常任指揮者を歴任。
ワインガルトナーは、ビューローのようなその場のインスピレーションで自由に演奏するタイプではなく、きっちりと譜面に忠実なリヒターの影響を受けた指揮者です。

ワインガルトナーが名声を確立した時ブラームスはまだ存命でした。
1895年4月にベルリンフィルがウィーンにやって来て3日間でブラームスの交響曲全曲を演奏したことがあります。指揮はR.シュトラウス、モットル、ワインガルトナーの3人で、ワインガルトナーは第2番を指揮しました。ブラームス自身は、リヒターよりもビューローの指揮を高く評価していましたが、この3日間の全部の演奏会を聴いた後、ジムロックへの手紙の中でワインガルトナーの演奏を絶賛しています。

ワインガルトナーにはブラームスの交響曲全集があり、第1番は機械録音時代から実に3回も残しています。他の3曲は各々1回のみ。

・ ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
(1938年 10月6日   ロンドン、アビーロードスタジオ)
ワインガルトナーは晩年に至るまで解釈に大きな変化はなかったそうです。この録音は80歳近いワインガルトナー晩年の録音ですが、老いの影はなく、明快で健康的、端正で気品に満ちた名演です。

早いテンポで進めた第1楽章は音楽が自然に流れ、展開部後半のホルンソロによって演奏される基本モットーを下で支えるコントラファゴットが実に雄弁。
そのままウンポコ・ソステヌートを経て再現部に至る絶妙のテンポ運びには思わずうまいなぁと感心してしまいました。
終結部187小節以降の複雑な絡みも木管の動きを殺すことなく完璧。

第2楽章は、のどかな中に忍び寄る不安の暗き影を見事に表現。感傷に溺れない第3楽章も実に見事。推進力溢れる第4楽章の第2主題に呼応する低音弦楽器の深い響き、ダイナミックレンジも広く確信に満ちた演奏にただただ圧倒されました。

なお、ワインガルトナーはベートーヴェン以降の作品について、解釈と演奏法について有名な著書を残しています。特にベートーヴェンの解釈については、オーケストレーションにさまざまな手を加え、後の指揮者たちに大きな影響を与えました。
同時代のブラームスについても、そのオーケストレーションについて批判は残していますが、実際の演奏は譜面に忠実です。第1楽章のリピートはありませんでしたが、同時代の指揮者の多くがおこなっている第4楽章終結部に旋律線を弾かせる変更はせず、譜面に忠実でした。まさにプロ中のプロのお仕事。

ワインガルトナーはマーラー(1860年生)とほぼ同世代で、フルトヴェングラーやトスカニーニ、ワルターたち、現在でも人気のある大指揮者たちよりも一世代古く、録音も1930年代までの古いものが中心のため、人気はいまひとつですが、この録音を聞くと実に偉大な指揮者であったことが実感されます。

今回は英EMI−IMGが出している2枚組CD「20世紀の偉大な指揮者たち」シリーズのワインガルトナー編と、新星堂が2000年に出した国内盤CDの2枚を聴きました。
新星堂盤は状態の良いSPを再生して収録したもので針音入り。高音部分のカットもなく比較的細部まで明瞭ですが、響きが幾分やせ気味でした。
一方のIMG盤は、金属原盤からの直接復刻かもしれません。針音は聴かれず、生々しく奥行きも充分で、パンチの効いた驚異的な再生音です。
新星堂盤は、ワインガルトナーがEMIに残した200枚余りのSPを全てCD化した空前絶後の画期的なシリーズでしたが、このブラームスの録音に関してはIMG盤が数段上の復刻音でした。


(2005.01.27)