「オットマール・スウィトナー(1922 - )」 インスブルック生まれ、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院で指揮をクレメンス・クラウスに師事。1942年インスブルックのチロル州立歌劇場でデビュー。ピアニストとして活躍した後、レムンシャイト市、ファルツ管の音楽監督の後、東ドイツに移り、1960年からドレスデン国立歌劇場、ベルリン国立歌劇場の総監督を歴任。 1971年初来日、N響名誉指揮者。 東ドイツ崩壊後健康を害し、1991年ベルリン国立歌劇場総監督を辞任。 現在完全に引退状態で消息不明。スウィトナーの引退の原因についてはいろいろな話を聞きますが、いずれも推測の範囲で本当のところはよくわかりません。 スウィトナーのレパートリーは広く、独墺もの以外にもドヴォルザークやグリーグにも名演を残しています。私が聴くかぎりでは、スウィトナーの演奏でハズレの演奏はなかったように思います。 ブラームスはベルリン国立歌劇場管を振った全集があります。今回は最後の来日となった1989年のN響定期の演奏も聴いてみました。 ・ベルリン国立歌劇場管弦楽団 (1985年 8月 ベルリン イエス・キリスト教会 スタジオ録音) オケの暗く引き締まった響きと強い意志を感じさせる力強い男性的な名演、中間二つの楽章の繊細な表情も見事なものです。 第1楽章冒頭の二つの和音を長めに取り颯爽と第一主題を開始。リピート有り、展開部81小節で加速を始め演奏は次第に白熱、部分的に崩しながらも豪快に盛り上がります。188小節のホルンの嚠喨たる強奏などゴキゲンな音。 遅くゆったりの第2楽章は、旧東ドイツのオケ固有の弦の渋い響きの中に聴かれるオーボエの澄んだ音色が印象的、第2主題を支える弦楽器のため息ような音がなんとも美しく響きます。理想のテンポに乗った第3楽章でのブレンドされた弦楽器の羽毛のような音も全く素晴らしいものです。 雄渾の第4楽章は、34小節目でホルンとティンパニが見事に同調しながらクレシェンド、ティンパニのダン!というアクセントも鮮やかに決まっています。75小節では大きなタメを作りながら加速、旋律線を崩し気味にしながらも重厚な響きの中整然としたクライマックスを築きます。ここで233小節でのティンパニはド→ファのファをオクターヴ上げているようです。このティンパニのアクセントもまた実に豪快で効果的。終結部の改変なし。 今回聴いたのは徳間の国内盤1,000円CDです。このCDの音質についてはいろいろと批判がありますが、私はさほど不満は感じませんでした。 ・NHK交響楽団 (1989年 11月16日 東京 NHKホール ライヴ映像) N響定期公演のライヴ映像。当日の前プロとして、モーツァルトの13管楽器のためのセレナーデが演奏されています。結局この来日がスウィトナーの日本における最後の演奏となってしまいました。 今回聴いたのは当時BSで放送されたエアチェックビデオです。 スウィトナーの指揮は左手をあまり使わず大きな二つ振りで淡々と進めます。テンポの変化はほとんどなく、曲の要所で押し付けるような強いアクセントをぐっとつけるのが印象的。第1楽章リピートなし。 会場も含めて全体に落ち着いた渋い雰囲気が漂います。これは立派な演奏でまさに大人の音楽。 しかし、私にはもう少し外面的な効果も欲しいと思いました。会場で聴けば印象は変わるかもしれませんが、N響の反応もベルリンのオケのような熱さがあまり伝わってこないので変化に乏しく正直退屈してしまいました。 (2005.05.29) |