「ブラームスの3番を聴く」59・・・・独墺系の指揮者たち11 シュタイン
「ホルスト・シュタイン(1928 - )」

N響の名誉指揮者としてお馴染みのホルスト・シュタインは、ドイツのウッパタール生まれ、故郷ブッパタール市立歌劇場からキャリアを開始し、ワーグナーの聖地バイロイトでクナッパーツブッシュ、カイルベルト、カラヤンの元でアシスタント指揮者として経験を積み、バイロイト音楽祭に何度も登場しスケールの大きなワーグナーを聞かせました。
スイス・ロマンド管、バンベルク響の音楽監督を歴任。

私はシュタイン&バンベルク交響楽団の演奏会で、ブラームスやベートーヴェンを聞いたことがありますが、いずれも渋く重厚、典型的な本物のドイツ音楽を聞かせてくれました。最近は体の不調が伝えられ、ほとんど活動のニュースが入って来なくなってしまいました。

ブラームスはバンベルク響とのライヴによる全集がありますが、若い頃にヨーロッパの
群小レーベルにいくつか録音があり、ブラームスの録音もあるかもしれません。

・バンベルク交響楽団
(1997年7月   バンベルク ヨゼフ・カイルベルト・ホール ライヴ録音)

ドイツのレーベル、KOCHへの全集録音の1枚。全てライヴ録音。近年引退同然のシュタインとしてはほとんど最後の録音だと思います。ドイツ盤ですが日本での人気を反映してか日本語でホルスト・シュタインの表示があります。

ほどよくブレンドされたオケの響き、暖かで普段着のブラームスでした。カイルベルトやケンペの演奏に聴かれた懐かしい響きです。同じドイツ系でもイッセルシュテットやヴァントのがっしりとした石造りの聖堂のような強固な音楽とは対極にある演奏でした。

何にもしてないようで作品自体に語らせる、このような演奏は誰にも出来るものではありません。
不動のテンポ感が全曲を支配、実演で聴かれたずしりとした重みのあるフォルテも健在。第1楽章リピートなし。第2,3楽章の美しさは聴いていて深い心の安らぎを覚えます。

第4楽章も一定のテンポで流れますが、149小節の地の底からむくむく湧き上がるフォルテが印象的、まさにシュタインフォルテ。

緻密な職人芸の光る、何度聴いても飽きの来ない演奏だと思いますが、演奏全体に往年のシュタインの底力が感じられません。バイロイトでの名演に聴かれたような、エネルギッシュさが希薄でした。この時すでにシュタインの健康状態が万全でなかったのではないかと思います。

シュタイン自身自分のブラームス録音をどうしても残しておきたかったのでは、と想像してしまいました。
(2005.05.31)