「ブラームスの3番を聴く」36・・・・独墺系の指揮者たち5 ケンペ
「ルドルフ・ケンペ(1910 - 1976)」

ドイツのドレスデン生まれ、オーボエを学び1929年からライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団の首席オーボエ奏者となっています。この時のゲヴァントハウス管の指揮者はブルーノ・ワルター、コンサートマスターはシャルル・ミュンシュでした。1935年ライプティヒ歌劇場で指揮デビュー、以後ケムニッツやヴァイマールなどのドイツ国内各歌劇場の指揮者を歴任するかたわら、1959年からドレスデン国立歌劇音楽監督。ロイヤルフィルやチューリッヒトーンハレ管の首席指揮者の後、その死までミュンヘンフィルの首席指揮者。

ケンペのブラームスのスタジオ録音は、ベルリンフィルとミュンヘンフィルを振った2つの交響曲全集と、バンベルク響との第2番、「ハイドンの主題による変奏曲」、ロイヤルフィルとの第4番の録音があります。

・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1960年 1月19,23日 ベルリン グリュネワルド教会 スタジオ録音)

1955年から60年にかけてEMIに録音された全集中の1枚。ケンペがベルリンフィルと録音した最後の録音です。

録音年に隔たりがあるのは、1956年にケンペ自身が病を得て数年間演奏活動を休止してしまったからで、この時期がちょうどモノラルからステレオ期への移行期と重なってしまったために、第2、4番とハイドンの主題による変奏曲はモノラル、その他の曲はステレオ録音という変則的な形となりました。

後に第4番はEMIへステレオ再録音をおこないましたが、この時期既にEMIとベルリンフィルとの専属契約が切れてしまったために、オケがロイヤルフィルに変わっています。

第2番は「ハイドンの主題による変奏曲」とともに、バンベルク交響楽団を振って独逸オイロディスクにステレオ再録音を行いました。

硬質で重厚、穏やかでありながら深い憂鬱を感じさせるブラームス。
フルトヴェングラー時代の重心の低い響きを残したベルリンフィルの音も魅力的。

早いテンポの第一楽章は、第1主題の7−8小節,9−10小節の付点二分音符のクレシェンドをすくうように強調、リピート記号の後2番括弧で急速な加速を見せ、79小節目は最速、182小節以降は、気合の入った素晴らしい盛り上がり見せます。ベルリンフィルの緻密なアンサンブルも見事なもの。リピートなし。

木管のダークな音色が印象に残る第2,3楽章は固めのごく普通の演奏。
第4楽章は、時々見せるスビュートピアノが鮮やかに決まっています。149小節以降の唸りを上げてひた走るオケも聴いていて大きな快感を覚えます。終結部の改変なし
ケンペの個性というよりもベルリンフィルの潜在的な個性をうまく引き出した演奏だと思います。

今回聴いたのはテスタメントからでたベルリンフィルとの全集セットCD、と70年代にセラフィムレーベルとして出た国内盤LPを聴きました。音の解像度はCDが上ですが、LPもさほど差は感じられませんでした。

・ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団
(1975年 11月13、15日 ミュンヘン スタジオ録音)

首席指揮者であったミュンヘンフィルと最晩年に残した全集中の1枚。

この第3番の国内発売時ケンペは既にこの世になく、追悼盤のような形で出たように記憶しています。この後12月に録音された第2番がブルックナーの交響曲第4番と並んで、ケンペの最後の録音の一つとなりました。
(最後の録音は、EMIのR.シュトラウス全集中の家庭交響曲の一部)

この一連のブラームスとブルックナーは当初BASFから出ましたが、途中でACANTAやLIBELLOといったレーベルを転々としました。CD化も非常に遅れ、確かブルックナーの第4、5番と同様、日本の愛好家の要請でCD化されたように記憶しています。
当初PILZからCD化され、後にSCRIBENDUMからCDで出ました。

味の濃い田舎風のブラームスです。ドイツの一地方で売っている手造りの織物を彷彿させる素朴さと暖かさを感じさせる演奏でした。オケは対向配置。

やや弱く鄙びた響きで始まる第1楽章冒頭は枯れた印象です。木管楽器が複雑に絡んだブラームス独特の語法を忠実に再現。
第1主題3拍目のデクレシェンド強調、201小節の第2ヴァイオリンの内声部を強調しているのが珍しい。
もそっとした無骨な第2楽章ですが、そっと語りかけてくれるようなブラームス。

第3楽章のしみじみと語りかけてくれるチェロの音、第2主題の歌い方は素っ気無いほどですが、これまた聴くほどに深い味わいを感じさせます。
第4楽章69小節目のスビュートピアノはベルリンフィル盤と同じですが、オケが十分に鳴りきらず、欲求不満が残ります、録音のせいでしょうか。
終結部の改変はありませんが、音の変わり目にわずかなアクセントを付けていました。

今回聴いたのは国内初出のBASF原盤によるLPで、古色蒼然とした実に渋い音。
(2005.04.07)