「オイゲン・ヨッフム(1902 - 1987)」 南ドイツのバーベンハイゼン生まれ、ヨッフム家は有名な音楽一家で、弟も指揮者。 ミュンヘンオペラの練習指揮者からキール歌劇場、マンハイム歌劇場の後、ハンブルク国立歌劇場の音楽監督、戦後はバイエルン放送響の創設時に係わり首席指揮者となりました。その後アムステルダム・コンセルトヘボウ管やバンベルク響の首席指揮者を歴任し、両オケを率いて来日もしています。 ヨッフムはバンベルク響の来日時に沼津にも来ています。指揮はハーガーが振り、ヨッフムは観客の一人として文化センターの客席に座っていました。私はたまたますぐ近くに座っていたのですが、ヨッフムは体格の良い穏やかな表情の老人で、体全体からオーラのような風格が自然とにじみ出ていたのを今でも覚えています。 ブラームスの3番は3つの録音があり、いずれもスタジオ録音。 ・ハンブルク国立フィル 1939年 ・ベルリンフィル 1956年 ・ロンドンフィル 1977年 このうちベルリンフィルとロンドンフィル盤は全集録音。 ・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 (1956年 4月 ベルリン イエス・キリスト教会 スタジオ録音) 交響曲全集中の1枚。1950年代のベルリンフィルは、ドイツ系の指揮者と集中的にブラームスの交響曲録音を行っていて、全集はこのヨッフムとケンペ、第1、2番はカイルベルト(テレフンケン)とベーム(D.G)があります。 ベルリンフィルの機動力をフルに生かした若々しくも覇気のある好演。両端楽章のクライマックスで轟然と鳴り響くBPOの重厚な音は聴いていて爽快。 第1楽章110小節展開部から再現部への移行部分の静と動の対比が見事。各楽器のバランスも良く、再現部120小節に突入してからの加速など、ひたすら前へ進む爽快なブラームス。リピートはなし。弦楽器たっぷりヴィヴラートの第2楽章。 第3楽章では、旋律のアウフタクトを伸ばし気味にする独特のアゴーギク。 第4楽章は、鋼のような硬質な響きのベルリンフィルの音色を最大限に生かし、早いテンポで雄渾に盛り上がります。149小節の直前でテンポを落として長い間を取り、172小節からテンポアップ、ひたすら登りつめながら楽器も加筆、246小節のホルンをオクターヴで吹かせていました。 今回聴いたのは、グラモフォン・オリジナルスのCD。モノラルながら非常に優秀な再生音です。 ・ロンドンフィルハーモニー管弦楽団 (1977年 ロンドン キングズウエイホール スタジオ録音) こちらもEMIに残した交響曲全集中の1枚。同じ頃ヨッフムはロンドン響による3度目のベートーヴェン交響曲全集を完成させていました。 ベルリンフィル盤のような若さは感じられませんが、飄々とした軽みの中に、古風なロマンティシズムの漂う演奏。 第1楽章でのクラリネットソロ前の絶妙の減速。展開部101小節の雄大さ。ウン・ポコソステヌートはたっぷり歌わせ182小節の冒頭再現は早いテンポで駆け抜けます。 落ち着きゆったり柔らかな第2楽章では、第2主題で密やかな緊張感を漂わせます。 ロマンティックで懐かしさ一杯の第3楽章。 第4楽章では167−8小節で大きなリタルランドの後、轟然としたフォルティシモでオケを鳴らします。旧盤と同じく一部ホルンなどに加筆。嵐の過ぎ去った252小節のヴィオラの歌でも軽さは落ちず、ごく自然に減速し終結部へ、こちらは改変あり。 同時期に録音されたベートーヴェンよりも良い出来で、聞いた後に深い充実感を感じさせる名演でした。オケのロマンティックでわずかに甘さを感じさせる古風な響きがまた風情を感じさせます。 今回は70年代にEMIから発売された国内盤LPを聴きました。アナログ最終期の優秀な再生音。 (2005.04.12) |