「ブラームスの3番を聴く」41・・・イギリスの指揮者たち3 マリナーとロッホラン
「サー・ネヴィル・マリナー(1924 - )」

イギリス中部のリンカーン生まれ、ヴァイオリン奏者としてサーストン・ダートとともに
ジェイコビアン合奏団を組織、その後ロンドン響の第2ヴァイオリン首席。モントゥーに指揮を指示。その後アカデミー室内管弦楽団を組織し、大胆な表現で話題になった「四季」などバロック音楽中心に名演を聴かせました。その後ミネソタ交響楽団、シュトゥットガルト放送響の音楽監督を歴任。

マリナーには様々なレーベルに膨大な録音量があり、とても全貌を掴みきれません。
一時期、デビュー当時の斬新な表現は薄れ、常識的な職人気質の芸風と化していましたが、70歳を越えた頃から次第に渋みと深みが出てきたように思います。ブラームスは交響曲全集があります。

・アカデミー・オブ・ザ・セントマーティン・イン・ザ・フィールズ
(1997年 10月  ロンドン ヘンリー・ウッドホール スタジオ録音)

トスカニーニの歴史的なブラームスチクルスでヴァイオリン奏者として加わったマリナーのブラームス。ドイツのヘンスラーへの全集録音中の1枚。オケはマリナー御馴染みのアカデミー管です。
オケのメンバー表を見ると完全な3管のフルオケで、フィリップ・ジョーンズブラスアンサンブルでも活躍したトランペットのマイケル・レアードの名前も見えます。

この組み合わせで、私はブラームスの第4番を三島で聞いたことがあります。オケの性能は優秀、透明度の高い響きとがっしりとした構成の演奏だったと記憶しています。
この演奏でもこの時の印象がそのまま当て嵌ります。重厚さには欠けますが、気を衒わない自然なテンポが心地良いスタイリッシュな演奏でした。

第1楽章第1主題の冒頭のトランペットに、強いアクセントをかけているのが印象に残ります。練習番号Mのセカンドヴァイオリンも明確。展開部の盛り上がりもなかなかのもの。リピート有り。

速いテンポの第4楽章では、143小節目の各楽器の絡み合いがバッハのような厳格さで鳴り響いているのに印象に残りました。
強烈な個性は感じませんが、師のモントゥー譲りの厳格さの中に清潔感も感じられる純音楽的な演奏だと思います。

「ジェイムズ・ロッホラン(1931 - )」

スコットランドのグラスゴー生まれ、ボン・オペラでペーター・マークの副指揮者としてキャリアを開始、ボーンマス響、BBCスコティシュ響を経てハレ管、バンベルク響の首席指揮者を歴任。93年には日本フィルの客演首席指揮者。現在デンマークのオーフス響の音楽監督。

ロッホランは今でこそ国際的なサーキットから後退してしまった印象ですが、エルガーなどのイギリス音楽のみならず、ベートーヴェンなどでも緻密で手堅い演奏を聴かせていた印象があります。

・ハレ管弦楽団
(1975年 9月 マンチェスター フリー・トレードホール スタジオ録音)

こちらも全集中の1枚、LP発売時には比較的好意的な評価を得ていたと記憶しています。
CDではロンドンフィルとのヴァイオリン協奏曲を加えたEMIのセット物CDとして出ています。

堅実穏健、誠実な手造り風の演奏。これは他のロッホランのレコーディングにも共通した特徴です。この硬派で古風なスタイルはブラームスには相性が良いようにも思えました。
クラリネットソロのちょっとした揺れなど、ローカルな古ささえ感じさせます。ハレ管の響きも幾分鄙びた雰囲気。

ただ勢いは感じず、丁寧さのあまり音楽が停滞する瞬間もあり、第2楽章など木管楽器の綾が美しい瞬間はあるものの遅いテンポに間がもたない印象です。第3楽章の旋律もチェロとヴァイオリンの旋律がぶつ切りなので歌謡性が後退。ディミヌエンドの直前に音量を上げ気味なのも人工的な小細工を感じます。

両端楽章のクライマックスがパンチ不足なのは、オケにも責任があるのかもしれません。
第1楽章リピートあり。

演奏としては水準の高いものですが、あまたの名盤と聴き比べると個性が弱く、聴き劣りがします。
(2005.04.22)