「ブラームスの3番を聴く」42・・・イギリスの指揮者たち4 コリン・デーヴィス
「サー・コリン・デーヴィス(1927 - )」

イギリスのウェイブリッジ生まれ、最初クラリネットを学びましたが、指揮は独学。
1957年にBBCスコティッシュ響の副指揮者。クレンペラーやビーチャムの急病による代役で注目され、1959年 - 1965年サドラーズ・ウェールズオペラの音楽監督。BBC響やバイエルン放送響、ロンドン響の首席指揮者を歴任。
デーヴィスのブラームスにはバイエルン放送響との交響曲全集があります。
今回はこの全集と、1992年のドレスデン国立歌劇場管との来日公演映像を聴いてみました。

・バイエルン放送交響楽団
(1988年 12月14、16日 ミュンヘン ヘラクレスザール スタジオ録音)

交響曲全集中の一枚。大きな広がりを持ったスケールの大きなドラマティックな名演。
第1楽章の大きな呼吸で始まる第一主題では10小節目の5,6拍をゆっくりタメ気味に演奏。うねるような流れの中に3拍子系の揺れるような独特の舞踏的なフレージングを見せます。雄大に盛り上がる展開部は、緊張感を持続しながら進み、ウンポコ・ソステヌート前101小節のホルンソロのモットーの断片が出るあたりは早めに進め、ここではホルンを支える弦楽器のシンコペーションを強調。リピート有り。

たっぷり歌う第2楽章も立ち止まって後ろを振り返るような余韻を持つ第2主題が印象的で、ロマンティックな中にも晴朗な歌の第3楽章も情感たっぷり。
遅いテンポの第4楽章は18小節目の第2楽章第2主題がトロンボーンで再現される部分から大きなタメを作りティンパニの強打とともに猛烈な加速。曲の各所でティンパニのここぞのイッパツが見事に決まっています。
第2主題を下で支えるコントラバスも雄弁、149小節以降の盛り上がりも十分でした。終結部は譜面のとおりで改変なし。

今回聴いたのはRCAから出ていた国内盤CDで、国内外ともに長い間廃盤でしたが最近復活。

・ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
(1992年 11月14日 東京 サントリーホール ライヴ映像)

世界最古のオケ、シュターツカペレ・ドレスデンとの来日公演映像、NHKで放送されたもののエアチェックです。この日の後半は同じブラームスの交響曲第1番が演奏され、おそらくこの時の第1番の演奏が海賊盤CDでも出ています。
デーヴィスはこのドレスデンのオケの名誉指揮者にもなっていて、ベートーヴェンの交響曲全集やシューベルトなど、少なからぬ量の録音があります。

そこでブラームスとなると大いに期待されるものですが、オケの自発性に任せて流れるままにさせている趣で、バイエルン放送響のような自己主張は感じられません。
正直なところ期待したほどの大きな感銘は受けませんでした。きっちりとした演奏で、ずしりとした手ごたえは感じるものの鈍重さの方が前面に出てしまった印象です。
国宝級のオケの伝統の重みにデーヴィスの個性がつぶされてしまったのでしょうか。

第2楽章の第2主題で管楽器による重く憂鬱な部分とあとから続く弦楽器の暗さの中に一条の光を見出すような穏やかさとの対比の鮮やかさと、第3楽章の木管楽器と弦楽器の音色の微妙な変化を絶妙なバランス感覚で描き出していた部分は、デーヴィスの確かな実力を感じさせる箇所でした。

ホルンの世界的名手ペーター・ダムのホルンソロはさすがに聴きもの。有名な第3楽章のソロだけでなく、1番ホルンが重要なパッセージを吹く部分になると、その度にダムの姿が大写しになっていました。

テレビ画面を見ていると、確信を持って演奏しているオケメンバーに対して、難しい顔をして指揮しているデーヴィスの顔が気になり始め、現在練習している我がオケの状況とオーバーラップし、ブラームスの交響曲第3番がとてつもなく難解な曲で、ドイツ人以外には理解できないのではないかという恐ろしい気持ちになってきました。
(2005.04.24)