「ダニエル・ハーディング(1975 - )」 オックスフォード生まれ、マンチェスター音楽院に学ぶ。ラトルのアシスタントとして1994年にバーミンガム市響を振ってデビュー。ベルリンフィルでアバドのアシスタント。ノルウェーのトロンハイム響、スウェーデンのノルケーピング響の首席指揮者を歴任し、1999年からブレーメンのドイツ・カンマーフィルの音楽監督、2003-04年のシーズンから、マーラー室内管弦楽団(MCO)の初代音楽監督に就任。2004年、ウィーンフィルデビュー、2006年からロンドン交響楽団の首席客演指揮者に就任予定。 ハーディングは順調にキャリアを伸ばしてきた、これからの指揮者界を代表する俊才。 ・ドイツ・カンマーフィル・ブレーメン (2001年6月20 - 22日 ビーフェルト、ルドルフ・エートカーハレ スタジオ録音) ドイツ・カンマーフィルはユンゲ・ドイチュフィルを母体として創設されたオケで、 ハーディングが就任する前は、古楽器オケも率いていた音楽監督ヘンゲルブロックの下、古楽器を中心にしたピリオドスタイルの演奏をおこなっていました。 この演奏もヴィヴラートなしの古楽器スタイル。ホルンのゲシュトップが各所で聴かれますが、ソロ部分の音の移行が自然であるので、ナチュラルホルンの使用とも言い切れません。 第1楽章第一主題は、一拍目にアクセントを付けスーと駆け抜けていくスタイル。オケの編成を刈り込んだ瑞々しくも爽やかでさっそうとした演奏。オケの反応の良さも気持ちよいものがあります。対向配置。 第3楽章で主題の2−3拍の間に間を空ける独特のアゴーギクを見せますが、これは好き嫌いが別れるかもしれません。私にはいかにも頭で考えた作為的な印象です。 第4楽章では第2主題の軽やかさとティンパニの明快な響きが印象に残ります。弦楽器が時としてひとつの楽器に聴こえるほど、オケは優秀。 暗く重厚なクナッパーツブッシュやフルトヴェングラーらの前世紀前半に活躍した巨匠たちの演奏とは、全く対照的です。100年近くの間で、これだけ演奏のスタイルが変化したのかと感慨深いものがありました。まさに新時代のブラームス。 「サー・チャールズ・マッケラス(1925 - )」 アメリカ生まれ、2才のとき両親の故郷であるオーストラリアに移り、シドニーでオーボエを学びシドニー響の首席オーボエ奏者の後、チェコに留学し名指揮者ターリヒに師事。ハンブルク国立歌劇場の指揮者を経て、サドラーズ・ウエルズオペラの音楽監督、BBC響の首席客演指揮者。 私はウィーンでマッケラスを聴いたことがあります。チャイコフスキーの弦楽セレナードのワルツで、ウィーンフィルの特質を最大限に生かした絹のような艶やかで優美な響きは今でも最高の思い出です。 ・スコットランド室内管弦楽団 (1997年1月6 - 11日 エジンバラ アッシャーホール スタジオ録音) LP時代後期からオーディオマニアに知られたテラークレーベル録音の全集中の1枚。 解説にはブラームスの初演当時の編成とし、演奏スタイルも徹底したポルタメント - グリッサンド奏法を採用と書いてありますが、第3番の演奏に関しては、ポルタメントもグリッサンドもさほど聞えません。 楽器は、オリジナル楽器ではなくモダン楽器を使用しているようです。ホルンはF管のウィーン式を採用と書いてありますが、これはウィンナホルン?聴く限りでは全然ウィンナホルンのようには聞えませんでした。 オケは対向配置で、ブラームスが好んだという自在なテンポの揺れがあり、特に第4楽章で顕著でした。 第1楽章は早いテンポの開始、sfを強調する金管楽器。テヌート気味の第一主題など、かなり個性的な印象です。展開部は少し早すぎ、落ち着きのなさを感じました。 後半182小節からさらに加速し、盛り上げながら駆け抜けます。リピート有り。 素朴で室内楽的な第2楽章。第3楽章は、各楽器の透明度の高い明快な響き。 大きなテンポ変化を見せる第4楽章は、遅い開始ですが主部に入るとタメを作りつつ次第に加速、音を割ったホルン、スタッカート強調の弦楽器が印象的。 自由自在のテンポの変化を見せた、ブラームスが好んだマイニンゲンの演奏スタイルを再現した演奏です。軽量級の小回りの利いたフットワークの良い演奏、ただ、いろいろと試みてはいますが、学究的な領域に踏み込むあまり、演奏を聴く面白みは意外と希薄でした。 (2005.06.05) |