「ブラームスの3番を聴く」47・・・マタチッチとアブラヴァネル
「ロヴロ・フォン・マタチッチ(1899 - 1985)」

当時オーストリア・ハンガリー帝国の一部であったクロアチア生まれ、フォンの称号を持つ貴族の家に生まれています。ウィーン少年合唱団に入団。ウィーン国立アカデミーで学ぶ。1933年ザグレブ歌劇場第1指揮者、1936年ベオグラード歌劇場総監督。ドレスデン国立歌劇場、ベルリン国立歌劇場音楽監督を歴任。戦時中はウィーン国立歌劇場指揮者。戦後ナチの協力者として糾弾され銃殺寸前まで行ったそうです。

1954年に指揮者として復帰しましたが、マタチッチのヨーロッパでの活躍の場は主にオペラハウスに限られました。N響の名誉指揮者としてたびたび来日、特にブルックナーの演奏の素晴らしさは今でも語り草となっています。

マタチッチのブラームスはN響とのライヴ録音がCD化されています。

・NHK交響楽団
(1973年 12月5日 東京 NHKホール ライヴ録音)

Altusレーベルから出ている一連のN響とのライヴシリーズ中の1枚。

豪快で荒削りですが、奇を衒わない巨匠の懐の大きさと余裕を感じさせる名演でした。

静けさとロマンの中に深い情景を感じさせる第2楽章、極めてデリケートな開始の第3楽章は、あのマタチッチの風貌からは想像できない弱音重視の繊細さが感じられます。

第4楽章も、もさっとした不器用さを感じさせる開始がまた魅力的。ただ緊張感の持続が後半で切れたような気配があるのが惜しいと思います。終結分は大きく改変し、たっぷり歌わせていました。
細かなミスはありますが、当時のN響の重心の低い重厚な響きが曲想とうまく合っていると思います。


「モーリス アブラヴァネル(1903 - 1993)」

ギリシャ生まれ、両親はスペイン系ユダヤ人。ベルリン国立歌劇場、パリ・オペラ座
メトロポリタン歌劇場の指揮者を経て、947年から1979年までユタ州ソルトレイクシティにあるユタ交響楽団の音楽監督。
ソルトレイクシティはモルモン教の総本山で、ユタ響は全面的にバックアップを受けているため楽器も良く優秀な団員が集まっているようです。

録音はアメリカのヴァンガードに膨大な量があり、特に史上初のマーラーの交響曲全曲録音はクールで虚飾を廃した名演で、アブラヴァネルの代表作といえるものでした。
私はイッポリト・イワーノフの「コーカサスの風景」の詩情豊かな演奏が忘れられません。

ブラームスは交響曲の全集録音があります。

・ユタ交響楽団
(1977年 ソルトレイクシティ ユタ大学音楽ホール  スタジオ録音)

ヴァンガードから出ている交響曲全集3枚組CDセット中の1枚。
アブラヴァネルの職人芸が光る演奏。各楽器が明快に鳴り、まるでレントゲン写真を見るようにスコアが目の前に再現されます。ただ、砂漠の多いユタ州のオケだからではないでしょうが、速いテンポでずいぶん軽く乾燥した汁気のない演奏です。

第1楽章の第一主題は、チェロとベースのシンコペーションを固めに強調しているために、ギクシャクしていて骨ばった印象でした。あっさりしていて骨格丸見えのトリガラのような演奏。ただ木管楽器は非常に優秀です。リピートなし。第2楽章後半のテンポがあまりにも早すぎてでも詩情に不足していますが、細部が明確な第3楽章は清潔感も感じられ独特の魅力が感じられます。

自然でデモーニッシュな開始で始まる第4楽章は、きちんと交通整理された各楽器が整然と鳴り響くのは圧巻、アブラヴァネルの確かな腕を感じさせるアポロ的名演。終結部の改変なし。

詩情には幾分欠けますがこの演奏の持つある種の頑固さは、第3番には似合っているかもしれません。オケも優秀で、アメリカの代表的メジャーオケ、いわゆるかつてのビッグファイヴにも引けをとらない精度。管楽器のソロなど見事なものです。
(2005.05.07)