「ブラームスの3番を聴く」51・・・ハンガリー系の指揮者たち2 ライナーとドラティ
「フリッツ・ライナー(1888 - 1963)」

ブタペスト生まれ、リスト音楽院でバルトークらに学び、ブタペスト・コミークオペラからキャリアをスタート、その後リュプヤナ歌劇場、ブタペスト国民歌劇場指揮者を経て、1914年からドレスデン国立歌劇場の指揮者。この時代にニキシュ、マーラー、R.シュトラウスといった音楽史上の巨匠の薫陶を受けました。

その後アメリカへ渡り、シンシナティ響、ピッツバーグ響の音楽監督。1953年にシカゴ響の音楽監督となり、このオケの黄金時代を築きました。

ライナーは、シカゴ響時代にブラームスの交響曲全曲を好んで演奏しています。シカゴ響音楽監督就任コンサートとシカゴ響との最後のコンサートシーズンには、交響曲第2番がプログラムに含まれていました。
ところが、ライナーのブラームスのオーソライズされた交響曲録音は、第1番を除く以下の3曲しかありません。

第2番:ピッツバーグ響
第3番:シカゴ響
第4番:ロイヤルフィル

ロイヤルフィルとの第4番は、ライナーがヨーロッパで演奏した最後の録音となりました。この時、チャイコフスキーの交響曲第5番の録音も計画されていましたが、このブラームスの録音をおこなった晩にライナーは胸の痛みを覚え、その後の録音は中止となってしまいました。
ライナーは死の1ケ月前にこの4番の録音を聴いて「私の録音の中で最も美しい演奏だ、満足している。」との言葉を残しています。

・シカゴ交響楽団
(1957年 12月14日  シカゴ オーケストラホール スタジオ録音)

RCAへのステレオ録音。この時期RCAは1,2,4番の3曲をミュンシュ&ボストン響で録音しています。
ライナーといえば虚飾を拝し、恐ろしいまでの緊張感の漂う筋肉質の演奏が多いイメージですが、この演奏は厳格なまでの音の彫琢はそのままで、ロマンティックで極めて柔軟なフレージングが聴かれる名演でした。シカゴ響の精度も完璧。

早いテンポ第1楽章第一主題ではレガート気味の柔らかさの中、5拍目の付点4分音符をやや落とし気味にし幾分テヌートをかけ流麗なロマンティックさを強調。続くクラリネットソロ前の弦楽器の大きな広がりと各楽器の音の浮き沈みの妙が印象に残ります。
展開部以降182小節目の頂点に向かって緊張感を高め、190小節以降は音を割ったホルン以下全ての楽器が完璧なバランスで結晶化して鳴り響き、感動的なクライマックスを築いていました。

第2楽章の木管楽器にかかる合いの手のチェロの繊細な響きが実に美しく、柔軟な表情が生きている第2主題。実に控えめながら高い品格を感じさせる第3楽章。

第4楽章の英雄的な盛り上がりは実に老練、149小節以降も力まずにぱりっとした盛り上がりを築いていました。なお96小節のファゴットにホルンを重ねる改変があり、終結部も変更しています。ここでのティンパニの刻みも正確無比でした。

今回は70年代にRCAから出た国内廉価盤LPと、ライナー・エディションとして第4番とのカップリングで発売された国内盤CDを聴いてみました。

この時期のRCAのLPは音の鈍いものが多く、この録音でも奥行き、音像の広がり、精度全ての面でCDの圧勝。

「アンタル・ドラティ(1906 - 1988)」

ブタペストに生まれ、リスト音楽院にてバルトーク、コダーイに学ぶ、ドレスデン、ミュンスターの歌劇場を経て、1934年モンテカルロ・ロシア・バレエの音楽監督、アメリカへ進出しニューヨーク・オペラ・カンパニーの音楽監督。その後ダラス響、ミネアポリス響、BBC響、ストックホルムフィル、ワシントン・ナショナル響、デトロイト響などのメジャーオケの首席指揮者、音楽監督を歴任。

ドラティは、ガタガタになったオケを立て直すオーケストラビルダーとしての実力を買われていて、実力が下降気味となった時にドラティを招いて、立ち直ったオケは数知れず。

・ロンドン交響楽団
(1963年  ロンドン、ウォルサムストウホール スタジオ録音)

マーキュリー・リヴィングプレゼンスシリーズのブラームス交響曲全集中の1枚。
第2番はミネアポリス響(現ミネソタ管)他はロンドン響による演奏です。
ちょうどこの時期にドラティはロンドン響とともに来日していますが、同行したモントゥー、ショルティの陰に隠れて評判は芳しくなかったようです。

かっちりしたリズムでテキパキと手際よくまとめた演奏。スリムで明快、リズムのキレの良さは相わらずですが、アクセント過剰気味で触れば怪我をしそうなゴツゴツした辛口の演奏。

じっくり入念に歌い上げた第2楽章、早いテンポでも深い余韻を残す第3楽章など、聴き所を外さないドラティの職人芸が光ります。第3楽章で最後の音をぐっと伸ばしているのも印象に残ります。

第4楽章は冒頭部分からコントラファゴットのぶりぶりした音が痛快、しかしティンパニの音が弱めのため、決定的なところでパンチ不足。終結部の改変なし、この終結部だけあとで継ぎ足したような不自然なテンポの変化があり違和感があります。
(2005.05.14)