「ブラームスの3番を聴く」52・・・ハンガリー系の指揮者たち3 ケルテスとショルティ
「イシュトバン・ケルテス(1929~1973)」

ブタペスト生まれのケルテス。1955年からブタペスト国立歌劇場の副指揮者となりましたが、ハンガリー動乱で亡命。聖チェチーリア音楽院でプレヴィターリに指揮を学ぶ、以後はケルン市立歌劇場総監督(1964~1973)、ロンドン響首席指揮者(1965~1968)。

ウィーンフィルとのドヴォルザーク、ブラームス、モーツァルトなどの名盤も多く、将来を嘱望されていましたが、1973年テルアヴィヴの海岸で遊泳中に高波に呑まれて死亡。

ブラームスはウィーンフィルとの全集録音があります。

・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
(1973年2月 ウィーン ソフェンザール スタジオ録音)

ケルテスの最後の録音となったブラームス交響曲全集中の1枚。ケルテスはこの2ヶ月後に逝ってしまいました。結局第2番は録音されず、ウィーンフィルとの64年録音が全集に加えられ、さらに終曲のみ録音されずに残っていた「ハイドンの主題による変奏曲」は、指揮者なしでウィーンフィルの楽団員が演奏し完成。

迫り来る自らの運命を予想していたかのような全編に哀愁の漂う演奏でした。 
第1楽章は優しく繊細で中庸の美、いささか盛り上がりに欠け物足りなさも感じますが、終結部のウィーンフィルの美しさは特筆もの。リピート有り。

第2楽章では第2主題前のチェロとコントラバスの深い響きが印象的。
空気のような透明感が感じられる第3楽章は、実体感の感じられない不思議な演奏で、聴いていて切なくなってきました。
自然なテンポで音がきちんと整理された第4楽章は、後半で悲愴感が漂う盛り上がりを見せていました。

パンチに欠け線の細さも感じられますが、ウィーンフィルを完全に手中にした練れた演奏で、40代の指揮者とは思えない老成した演奏でした。

「サー・ゲオルグ・ショルティ(1912 - 1997)」

ブタペスト生まれ、バルトーク、コダーイに指示、ブタペスト国立歌劇場の練習指揮者から出発。ピアニストとしても超一流でジュネーヴ音楽コンクールの優勝歴もあります。
61年からシカゴ響の音楽監督で、鋭敏な耳の良さでこの世界最高のオケをさらにパワーアップさせました。
ブラームスはシカゴ響との全集録音があります。

・シカゴ交響楽団
(1978年 5月 シカゴ メディナテンプル スタジオ録音)

ブラームス交響曲全集中の1枚。ドイツ・レコード賞とグラミー賞を受賞した名盤。
ショルティのドイツものは日本では人気がないようで、この演奏も国内ではあまり評判にならなかったように記憶しています。

私もショルティのブラームスなんて・・・という先入観から、全然聴く気が起きなかったのですが、虚心に耳をかたむけてみると、力で押す部分は皆無、しかもスコアに忠実だけでなく室内楽のような精密さと柔軟さにあらためて仰天しました。

第1楽章は遅め、スコアに忠実ですがバカ正直な忠実さではなく臨機応変のテンポ変化があり、きわめて説得力のある演奏です。リピートあり。
じっくり寝かせたタレのような深みとコクのある第2楽章。上質の絹の肌触りを思わせる気品のあるチェロの響きが魅力的な第3楽章、この中間の二つの楽章は、各声部の見通しの良さと楽器の緊密な連携で、あたかも室内楽を聴いているような感覚を覚えました。
第4楽章も精密で柔らかい演奏ですが、ここはシカゴ響のパワフルさをもっと表面に出しても良かったと思いました。終結部改変なし。

この全集録音について、「第2番と第3番は、室内楽的特性の再現のために弦楽器の人数を必要最小限とした。」というショルティの言葉があり、深い研究の上に基づいた解釈であるようです。
(2005.05.16)