「カレル・アンチェル(1908 - 1973)」 チェコの南ボヘミア地方のトゥプカビ生まれ、プラハ音楽院で作曲と指揮を学ぶ。1933年プラハ響の音楽監督になりましたが、第2次世界大戦中ナチの非協力者としてアウシュビッツに家族ぐるみ送られ、家族全てを失いました。 戦後復帰し、プラハ放送響の常任指揮者を経て1950年からチェコフィルの常任指揮者に就任し、戦争の影響で壊滅的な打撃を受けたこの名門オケを立て直しました。 しかし1968年民主化の波に乗っていたチェコに旧ソ連が侵攻、当時アメリカに単身客演中だったアンチェルは、そのままアメリカにとどまり、その後小沢征爾の後任としてトロント響の音楽監督に迎えられました。 ムラヴィンスキーに「アンチェルがいるから新世界は振らない」とまで言わせたほど、ドヴォルザークやスメタナの演奏には、絶対的な強みをみせましたが、他の作曲家の作品も、緊張感溢れた密度の濃い演奏を聞かせ、残された録音のほとんどが高水準な演奏ばかりです アンチェルのブラームスは、チェコフィルと第1番、第2番のスタジオ録音がありますが、第3番はトロント響のライヴのみです。 ・トロント交響楽団 (1970年 10月27日 トロント ライヴ録音) 亡命後のポスト、トロント響とのライヴ。Tahraから出ていたCD、アンチェルエディション中の1枚。 苦労人で悲劇的な生涯を送ったアンチェル。その高潔にして誠実な人柄は会う人に大きな感銘を与えたそうです。 この演奏は、トスカニーニ風のきっちり楷書型。きわめて堅牢な造りのびくともしない演奏でした。 第1楽章第一主題は、弦楽器が弓を力いっぱいにべったりと弦にくっつけて弾いているような響きです。第二主題のクラリネットとファゴットと第2楽章の木管群の慈しむような歌、第1楽章再現部直前の大きくテンポを落とす部分が印象に残ります。 第3楽章は速いテンポであっさり過ぎ去り、ひとつひとつのブロックを着実に積み上げていくような第4楽章は、151小節目ではホルンとトランペットの音型を改変し木管楽器と重ねるなど細部で楽器を重ねているようですが、響きそのものはスリムで端正。 アンチェルの引き締まった指揮で緊張感も感じられます。終結部の改変なし。 古い職人気質の堅実な演奏でした。オケの性能は充分とは言えませんが、トロント響がアンチェルの芸風に共感して、力いっぱい弾いているのが直に伝わる感動的な演奏となりました。 (2005.05.19) |