「ブラームスの2番を聴く」18・・・・・・戦前派巨匠の演奏 ワルター その3
*ニューヨークフィルとのスタジオ録音には、リハーサル風景も残されています。

ワルターのリハーサル録音は数多く残されていますが、ブラームスの交響曲第2番のリハはこの録音の他に、カナダのヴァンクーバー祝祭管との1958年収録の映像があります。

・ ニューヨークフィルハーモニック
(1953年12月24日  ニューヨーク30番街スタジオ   リハーサル録音)

これは「演奏の誕生」というタイトルのLPで、プロデユーサーのマックルーアの解説入りのマーラーの交響曲第9番のリハーサル風景を中心に、余白にニューヨークフィルとのブラームスの交響曲第2番第一楽章と、第3番第二楽章のリハーサル風景を入れたもの。

収録内容は冒頭から85小節、そしてシンコペーション部分の88小節と、ちょっと飛んで中間部の234−268小節までの第一楽章のほぼ全部でした。
おそらく録音テープは回しっぱなしで、全曲の練習風景が録音されているのではないかと思います。

「グッド・モーニング」から始まるリハーサル。声を聞くかぎりでは、この時のワルターはかなり上機嫌のようです。

リハーサルは冒頭6小節をさらっと流した後に、もう一度最初から演奏していきます。
トランペットとホルンは抑え気味。さらに各楽器のバランスに重きを置いたもの。
84小節のシンコペーションで流れていく部分では、ワルターの「シェーン!(美しく)」という声がかかり足踏みの音が聞えます。

細かな部分をしつこく何度でも繰り返す徹底さは感じられませんが、ディミニュエンドからピアニシモに至るダイナミックスの変化への注意はかなり細かく、特にディミヌエンドには最新の注意を払っているようでした。

レコーディングのためのリハーサルということで、後のヴァンクーバー祝祭管とのリハーサルよりは丁寧です。

・ ヴァンクーバー祝祭管弦楽団
(1958年    リハーサル映像)

カナダ、ヴァンクーバーフェスティバルでのリハーサル映像。
第1、 第4楽章のリハーサルとワルターへのインタヴューが収録されています。
国内ではLDが初出でした。
オケの実体はよくわかりません。標準の2管編成ですが、各木管に一人ずつ奏者を補強。
配置は左から順にファーストヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、セカンドヴァイオリンの対向配置で、チェロの後ろのコントラバスの前にホルンが挟まれているという珍しい配置。

リハの最初にワルターが「ホルンはどこだ?」と尋ねたりしていますので、ワルターの指示による配置ではなさそうです。

ワルターの指揮は威厳に満ちたもの。リハーサルとはいえ暗譜で演奏しています。
ほとんど止めず通しの演奏ですが、止めたあと再開する部分では楽員に練習番号を問い直していました。

音楽祭における特別ゲストだったのでしょう。ワルターの指揮にはさほど熱意は感じられませんでした。鈍重で反応の遅いオケにワルターもずいぶんとやりにくそうです。

第一楽章のリハーサルの最初の部分では初顔合わせということもあり、かなりぎくしゃくしていて大指揮者を迎えたオケもかなり緊張気味。
ワルターはオケに対して盛んに「シング、シング、エスプレッシーヴォ!!」を繰り返しています。
2度目に最初から繰り返した時からはオケも肩の力が抜け、ワルターの本来の豊かな音が鳴り響いていました。
第四楽章後半では、コーダの入口の353小節のfpで一旦止めます。361小節から大きなクレシェンド。375小節のコントラバスを強調。
356小節ではトランペットをしっかり吹くように指示した後のやり直しではトランペットは大きく音をはずしてしまいました。緊張したのでしょうか。

ワルターの指揮は、老齢ということもありますが、口で細かく説明していくよりも棒に多くを語らせていきます。時として指揮棒を左手に持ち替え右手の手のひらで細かなニュアンスを演出していきました。

海外ではビデオやDVDでも出ていますが、自分の手持ちは歴史的な指揮者たちの珍しい演奏映像を集めた「アート・オブ・コンダクティング」中の映像でLDです。
第一楽章とインタヴューの一部が収められたもの。
なおYOUTUBEにはこの映像の第4楽章の一部がアップされているので、そちらも参考にしました。
(2013.06.11)