・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 (1945年1月28日 ウィーン ムジークフェライン ライヴ録音) 第二次世界大戦中のフルトヴェングラー最後の演奏会となったライヴ。 この日はフランクの交響曲ニ短調も演奏され、いずれの録音も残っています。 ヒトラー暗殺事件の関与を疑われたフルトヴェングラーは、逮捕の前にスイスへの脱出を決意、この演奏会の本番を終えた直後にフルトヴェングラーは夫人とともにスイスへ脱出しました。 厳寒のウィーンの街でこの本番直前にフルトヴェングラーは転倒し、脳震盪を起こしています。 戦時下とはいえ尋常ならざる雰囲気の漂う演奏でした。 フルトヴェングラーに迫りつつあった身の危険がそのまま音楽に乗り移ったようです。 特にフィナーレのお急ぎ感が凄まじく、ベルリンフィルとの物々しい緊張感とはまた異なった切迫感が感じられます。一方でしなやかなウィーンフィルの音も印象的。 以下が二つの演奏の演奏時間の比較です。 1. 2. 3。 4. 1945年 14‘16“ 10’14” 5‘51“ 8’28” 1952年 15‘32“ 10’38” 5‘54“ 9’01” 後のベルリンフィルとの録音と比べると何かにせかされるような、この急ぎ方は尋常でなくフルトヴェングラーのブラ2の中では最速の演奏。 この夜フルトヴェングラー夫妻はスイスへ脱出しています。早く逃げたかったのでしょうか。 第一楽章は50小節目から加速、非常時のつかの間の平和のような穏やかさを見せながら、 227小節めで強烈なffが爆発。294小節のティンパニはfでなく、pから轟然たるクレシェンドで音楽動きを演出。 404小節のシンコペーション部分から加速しますが、加速に歯止めがかからず420小節目あたりからいささか急ぎ過ぎの暴走気味となりました。445小節目からようやくの減速。長大なホルンソロへ突入した後の470小節のリタルランドは絶妙。 第二楽章も美しくしなやかな動き中に漂う渋い寂寥感。テンポは短いインターバルで細かに揺れ動きます。 17小節目の1拍めを長く取り2拍めから入るホルンソロまでの大きな間、そしてコーダでの95小節の長い休止は、一瞬闇を覗くような恐怖感を演出。 ウィーンフィルの木管楽器群の美しさが光る第三楽章では、序奏の穏やかさと激しさの中にも落ち着きも感じられるPrestoの対比。 終結部236小節で、木管群とホルンの音の伸ばしが弦楽器群へ引き継がれる部分の美しさにはぞくっとしました。終結部の自然な動きも見事です。 第四楽章序奏のサラサラとした淡白な開始は23小節から一転、ここでの爆発は凄まじく怒涛の進撃が始まります。 75小節でわずかにテンポを揺らめかせて第2主題へ突入。ここではさほどテンポは落としません。 音楽はひたすら前へ前へと突き進み、155小節からの展開部の急ブレーキに続く221小節からのSempre piu Tranquilloにはミステリアスな雰囲気が漂います。 ここでしばしの休息で息を整えて、245小節からの再現部でむっくりと音楽は立ち上がり再び恐怖の進撃が始まります。 まさに激情を押さえつけられないほどの爆発。 他の多くの指揮者がテンポを落とす375小節でもそのままで突っ走ります。 加速しながらの405小節のトランペットのマシンガンのようなタンギングも凄まじく、巨大な終結を迎えていました。 今回聴いたのは、日本コロンビアが出していたワルター協会原盤の国内盤LPと、グラモフォンから出ていたウィーンフィル創立150年記念CDです。 当時のライヴとしてもあまり良い音ではなく、厳寒中でのコンサートということでお客の咳が盛大に聞こえます。 CDはノイズがクリアになりましたが、その分大切なものも抜け落ちたようで去勢されたような音。 ワルター協会盤は咳の音とざわざわ感がかなりリアル。 時々高音域にピーというノイズが入りますが、音にも力が有り会場の異様な雰囲気が十分に伝わります。 (2013.08.16) |