・ロンドンフィルハーモニー管弦楽団 (1948年3月22、23、25日 ロンドン キングズウェイホール スタジオ録音) 英DECCAへのロンドンフィルとの唯一のスタジオ録音。 この年の3月フルトヴェングラーは戦後初めてイギリスを訪れ、ロンドンフィルと10回のコンサートを開いています。 録音に立ち会ったジョン・カルショウの手記によると、フルトヴェングラーは自分の視野に入った複数のマイクロフォンがどうしても気に入らず撤去を迫ったために、結局フルトヴェングラーの目に入らない位置の天井から釣り下げた1本のマイクロフォンのみの録音となったそうです。 結果としてスタジオ録音としては音に明快さが欠け、楽器によっては充分に音を拾いきれていない録音となってしまいました。 フルトヴェングラーとしては感情の起伏の少ない、内省的な演奏のようにも聞こえます。 オケの明るく柔らかな音色と軽い響きは曲想にうまく合っていて、ドロドロ感のない透明度の高い流れの良さは、他の2種とはまた異なるフルトヴェングラーの芸風の一面を捉えていると思います。 第一楽章最初の1番2番ホルンに応える3,4番ホルンが異なるフレージングで演奏しているのが気になりました。 ためらいがちな始まりから徐々に音楽は流れに乗り、やがて大きく飛翔していきます。 第2主題への移行ではテンポの変化はなく、ベルリンフィルとウィーンフィルとのライヴで聞かれた227小節の圧倒的なフォルティシモもなし。 この部分は他の2種のフルトヴェングラーの演奏と異なります。 183小節のホルンソロ前の空白は明らかに編集ミス。204小節も1拍欠落しています。 再現部に入る290小節から300小節までのフルトヴェングラー独特のテンポのユレが絶妙の効果を上げていました。 第二楽章のチェロと続くヴァイオリンの柔らかで美しい音は、ベルリンやウィーンとはまた異なる気品のある音です。33小節のlisteso tempoのピチカートに乗る木管の浮遊感が印象的。 45小節ではテンポをぐっと落とし弦楽器のエスプレッシボでの感情移入、丁寧に歌い上げながらの45−65小節間の神秘的な動きなどフルトヴェングラーならではのもの。 最後のフェルマータは長めで凄味のあるピアニシモの中で静かに壊れ物を置くような終止。 第三楽章は優しげに軽く進み23小節のフェルマータへの自然な減速も見事。 プレストの間の不自然さは明らかに編集ミス。 第四楽章の前半は平板な出来。 79小節の主題に入る間が微妙に短いのは編集ミスかもしれません。 222小節のSempre piu tranquilloからのテンポの落とし具合から244小節のin tempoでの冒頭回帰の切り替えはさすがにうまいものです。 終盤の269小節あたりからのコントラバスを強調した弦楽器の刻みはさながら蒸気機関車が爆走するかのような激しさで、続くコーダでの盛り上げもお見事。 ベルリンフィルやウィーンフィルとの強烈で個性的な演奏の前に影の薄い録音とはいえ、録音状態が万全ならば、もっと一般的な評価は高かったと想像します。 今回聴いたのは、テレフンケンが通信販売用に出したドイツプレスのBD428Bという番号の黒金レーベルの古いLPと、キングレコードが出したMX規格の国内盤廉価盤LPです。 両盤とも音がぼやけていて演奏の実体をかなり想像で補うことになりました。 フルトヴェングラーのもっと録音状態の悪いライヴでも、フルトヴェングラー独特のデモーニッシュな激しさは充分聞き取れるので、SPの原盤からLP化の段階で何か大切なものが抜け落ちてしまったようです。 編集ミスの箇所は両盤ともにほぼ同一、オリジナルマスターの元は同じであると思います。 独逸盤は音に力があり安定していますが、国内盤LPは録音レベルが低くかなり悲惨な音。 Youtubeに英DECCAのLPから起こしたと思われる音源がアップされていますがこちらは比較的良好な音でした。 http://www.youtube.com/watch?v=ofynTGM6CBE (2013.09.14) |