「ウイレム・メンゲルベルク(1871〜1951)」 オランダ、ユトレヒト生まれ。両親はドイツ人。アムステルダム・コンセルトヘボウ管の常任指揮者として50年に渡って君臨し、ベルリンフィルやウィーンフィルと並ぶ世界的なオーケストラに鍛え上げました。第2次世界大戦後は、ナチスに協力したためスイスに追放され失意のうちに世を去りました。 1895年にメンゲルベルクがコンセルヘボウ管に就任した時にブラームスは未だ存命でした。 さらにメンゲルベルクは、ブラームスの親友だった名ヴァイオリニストのヨアヒムをコンセルトヘボウ管に招き、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を演奏したことがあり、 この時にブラームスの演奏スタイルについてなんらかの教示を受けた可能性があります。 (独逸テレフンケン復刻CDの解説書による) アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 (1940年4月9~11日 アムステルダム スタジオ録音) 独テレフンケンへのスタジオ録音。 戦前独逸テレフンケンは、第1、3番を当時新進気鋭だったヨッフムを起用しベルリンフィルと録音。 第2,4番はメンゲルベルク指揮コンセルトヘボウ管により、ブラームスの交響曲全集を完成させました。 これは速めのテンポで進めた演奏で、時代を感じさせるポルタメントが散見されますが、メンゲルベルクの他のロマン派の音楽の演奏に比べ、ロマンティックな濃厚さは希薄です。 ブラームスの作品を、あくまでベートーヴェンの延長線上の古典的な佇まいの音楽として捉えているかのようです。 この演奏を聴いていて、メンゲルベルク独特の拍子の打ち方が気になりました。 特に第1、3楽章のように3拍子の曲になると3拍目の入りが微妙に遅い時があり、それが音楽の流れを損なっているように思えます。 ヨアヒムの残された録音に共通する、現代の演奏スタイルとはかなりかけ離れた恣意的なテンポ変化がこの演奏にもあります。 第一楽章冒頭の動機はさりげなく柔らかで軽い開始。 17小節めでヴァイオリンがクレシェンドしながら始めて入る箇所は直前でテンポを落とし下降部分で急激に加速。 44小節から速い一定のテンポとなります。第2主題直前のテンポの揺れと僅かなパウゼも絶妙。95小節のルバートも美しく響きます。 音楽は微妙に揺れますが一定のテンポ感が支配。再現部に入り292小節の3番トロンボーンの動機を強調。 美しくチェロが歌う第二楽章はピッチが正確な木管楽器と弦楽器が溶け合いひとつの音で響くのが圧巻。17小節目の最初のホルンソロのドーファと変化する部分ではファの音を長く伸ばしポルタメントで流れていきます。この動きの変化をぴたりとつけて動く弦楽器群も聴きもの。風雲急を告げるクライマックスの45小節は速めのテンポ。 遅い部分は遅く早い部分は極端に速いというフィードラーほどではありませんが、多少のデフォルメがあります。 第三楽章も落ち着いた静けさが漂い、とろけるような木管とホルンへの受け渡しも印象的。115小節の主題の再現のクレシェンド、デクレシェンドを大切に表現 第四楽章の43小節のティンパニの8分音符はトレモロに改変、これはコンセルトヘボウの伝統しょうか。第2主題の前に少しルバートをかけふくらませ、主題にわずかなポルタメント。244小節のインテンポ冒頭回帰の前にゆっくりと落とします。 コーダは388小節から猛然とダッシュさらに力強く歓喜を爆発させていました。 19世紀の退廃美の権化のような印象のメンゲルベルクですが、この演奏のテンポの揺れや拍子感は今の演奏スタイルとは全く異なるもの。 各楽器のピタリと合った音程は驚異的、世界最高の水準に達していたメンゲルベルク時代のコンセルトヘボウ管の合奏の精度はいつ聴いても凄いものです。 今回聴いたのは1988年に管一氏、川合四朗氏の監修でキングレコードが出した国内盤と、テルデック(テレフンケン)創立70周年記念企画としてマルコス・クローマンがプロデユースして2002年にワーナーから発売されたテレフンケンレガシーのCDの2種類。 両方ともSP盤ではなく、当時のメタル原盤を使用したと書いてありますが、音の状態はだいぶ異なりました。 キング盤は針音をそのままにストレートにCDに復刻したもの。一方のワーナー盤は針音は完全にカットしていました。 両者にはおよそ15年の隔たりがありますが、音の力と明瞭さはワーナー盤が圧倒的に優れていました。 この間のデジタル技術の革新を目の当たりにする結果となりました。 なおドイツ本国に保管されていたテレフンケンのメタル原盤はキング盤の解説によると、1946年のエルベ川の氾濫で流出したとあります。キング盤は日本に保管されていたものを使用しています。 (2012.06.30) |