「アルトゥーロ・トスカニーニ(1867〜1957)」 ミラノ郊外パルマ生まれ、天才的な記憶力と統率力を持ちヴェルディの歌劇「オテロ」の初演にチェリストとして参加。指揮者としては歌劇「ラ・ボエーム」、「道化師」「トゥーランドット」など多くの歌劇や管弦楽作品の初演を振った音楽史上に残る大指揮者の一人。 トスカニーニのブラームスの交響曲第2番には以下の録音があります。 ・1938年 BBC響 ライヴ録音 ・1943年 NBC響 ライヴ録音 ・1951年2月10日 NBC響 ライヴ録音 ・1952年2月11日 NBC響 スタジオ録音 ・1952年9月29日 フィルハーモニア管 ライヴ録音 BBC交響楽団 (1938年6月10日 ロンドン、クィーンズホール ライヴ録音) EMIの倉庫から発見された未発売録音。 1936年にニューヨークフィルハーモニックの音楽監督を辞任したトスカニーニは、ヨーロッパに活動の場を移し、ザルツブルク音楽祭や各地のオーケストラへの客演の日々を過ごします。 イギリスのBBC響には1935年から数度にわたって客演し、ブラームスの交響曲第2番の日にはベリウスの交響曲第2番も演奏されました。 1930年創設のBBC響はホルンのオーブリー・ブレインやファゴットのサトクリフなどの名手が在籍、大恐慌時代にもかかわらず待遇も良かったので優秀な奏者たちが数多く集まっていました。 速めのテンポの中でのストレートな歌とカンタービレ、即興的で柔軟な動きもあり、後のNBC響との演奏とは異なったトスカニーニの一面が垣間見られる演奏でした。 最晩年のNBC響やフィルハーモニア管との演奏に比べると、各部のアコーギクはかなり異なります。強靭なカンタービレとストレートな解釈が、自然なテンポの揺れの中で絶妙なバランスを保っているのがお見事でした。 全盛期のトスカニーニの演奏は本来このようなものであったのかもしれません。 第一楽章冒頭は穏やかでトスカニーニらしくない柔らかさで開始。 最初のホルンの二重奏は精彩に欠けていました。名手として知られたデニス・ブレインの父のオーブリーが吹いているはずですが、どうしたのでしょうか? 第2主題はテンポの変化を見せずに優しく優雅に歌わせます。 再現部292小節の3番トロンボーンの動機を強調。400小節めから加速。 動機を明確に移り渡していく中で時として譜面を逸脱しても歌い上げていきます。 477小節のポルタメントはこの時代ならではの特徴でしょうか。 最後のホルンソロの前にぐっとヴァイオリンを強調させて浮かび上がらせていました。 第二楽章冒頭のびやかなチェロの歌にブラームスの音楽を聴く醍醐味が凝縮。 12小節のフォルテでのチェロがまた雄弁、44小節からわずかに減速していき、じっくり音楽は沈潜していきます。 第三楽章は田園風の間奏曲的な色合いよりもスケルツォ的な性格を強調しているようです。33小節からの細かな活力は冒頭ののどかさとの対比が明確。107小節のテンポプリモからの各声部の動きの雄弁さも印象的。 194小節めから主題再現No.2の入り方も絶妙。218小節からのオーボエとヴァイオリンのドルチェも夢の中の情景のような良い雰囲気でした。 猛烈に速いテンポで始まる第四楽章は、きわめて情熱的に盛り上がります。展開部に入ってからの225小節のヴァイオリンの色気も良い雰囲気を出しています。 今回聴いたのは英テスタメントのCDです。古い時代の記録ですが明快な音で鳴っていました。 (2012.07.25) |