「ブラームスの2番を聴く」10・・・・・・戦前派巨匠の演奏 トスカニーニその3
・フィルハーモニア管弦楽団
(1952年9月29日 ロンドン ロイヤルフェスティバルホール ライヴ録音)

トスカニーニがウォルター・レッゲの創設したフィルハーモニア管に惚れ込んで実現した歴史的演奏会のライヴ。当初6日間の客演予定であったのが複雑な事情が絡み、結局2日だけの客演となりました。
交響曲第2番はこのチクルスの初日に取り上げられ、イギリス国家に続き悲劇的序曲、
交響曲第2番、交響曲第1番の順に演奏されています。
なおこのコンサートではトスカニーニの希望により若干の弦楽器奏者、ソロクラリネットとトロンボーンの補強が行われました。

初日のコンサートでは、プレッシャーのあまり交響曲第1番終楽章のコラールでトロンボーンがガタガタになってしまっていたり(トスカニーニ自身もあがっていて、この部分で振り間違えたとの元団員の証言もあり)、第2番第1楽章の終わりの部分でトランペットが出を間違えていたりといった事故があります。

オケの透明な響きの中に漂う尋常ならざる熱気、変幻自在の自由な動きの中である種幻想的な雰囲気が感じられる演奏でした。
第一楽章の演奏時間が偶然にもNBC響とのRCA録音と同じですが演奏自体の印象は全く異なります。

各所で聴かれるホルンソロは稀代の名手デニス・ブレイン。

第一楽章冒頭のホルンの掛け合いから静かで落ち着きのある平穏な開始。
80小節めで僅かにテンポと音量を落としながら第2主題に自然に流れる巨匠の至芸。
弦楽器による主題が繰り返す中で音楽は大きく上昇しながらカーヴを描いていきます。
234小節の凄味のあるフォルテはまるでオルガンのよう。
重いテンポの中で410小節めから加速、ここでのブレインのホルンソロも見事なもの。終結部の513小節では1番トランペットが飛び出してしまいました。

第二楽章は冒頭チェロの主題の自然な呼吸の動きから熱く音楽が展開していきます。
17小節からの瞑想するようなホルンソロに絡む木管の響きが神秘的であたかも深い森の中を散策するような趣。
コーダの100小節めから大きくテンポを落として終結部を迎えます。

第三楽章ではチェロのピチカートに乗るオーボエに絡む他の木管楽器の暖かさの中、一転、続くプレストの激しさとの対比が印象的。
終結部では235小節のチェロを強調し、最後の4小節poco sosutenutoの入りとテンポの落とし方が絶妙。

第四楽章に入ってティンパニのバランスの大きさが気になりました。
48小節では裏拍のティンパニを強調、76−77小節の第2主題前でテンポを落とし、111小節のホルンの強奏には血わき肉躍る趣があり、長めに伸ばした最後の和音が終わる前に熱狂的な拍手が湧いていました。

曲想の影響でしょうか、楽員の緊張感は第1番の演奏の時ほどは感じられず、トスカニーニが強力な指導力でぐいぐいと引っ張っていくのではなく楽員の自発性を尊重しながら自然な音楽の流れの中で一緒に音楽を作り上げていく趣。

「(自分の音楽生活で)一番楽しかったのは、(フィルハーモニア管と)ブラームスの第二番のリハーサルをした時だ。・・・・略・・・・
私が他の奏者と一緒になって演奏している一人の演奏家にすぎなかったのは、生涯であの時ただ一度だった。」
とのトスカニーニの言葉が残っています。
(レッグ&シュヴァルツコップ回想録『レコードうら・おもて』 音楽之友社)。

今回聴いたのは、BBC放送のエアチェック音源のチェトラの音源を元にした国内盤LPとレッゲが所有していたマスターテープから製作されたTestamentのCDで聴きました。

第3番、4番の聴き比べの時と同様、音楽を聴くにはテスタメント盤のCDが断然良い音ですが、聴衆のざわつきや咳こみがリアルに音楽の前面に出ているLPには独特の臨場感と熱気が漂います。マイクの位置が異なる別系統の録音かもしれません。


(2012.11.07)