ドイツのダンツィヒ生まれの名指揮者、一定のポストといえばウィスバーデンの音楽監督を長く務めたくらいの地味な存在ですが、ベルリンフィルやウィーンフィルの定期には早くから登場していました。 深い教養の持ち主、謙虚で暖かな人柄で多くの楽団員から慕われ、晩年はウィーンフィルの団員に神のごとく尊敬されていたそうです。 シューリヒトの「ぶら2」は現在以下の5種の録音があります。 ・ウィーンフィル 1953年 スタジオ録音 ・北ドイツ放送響 1953年 ライヴ録音 ・ウィーンフィル 1962年 ライヴ録音 ・フランス国立放送管 1963年 ライヴ録音 ・シュトウットガルト放送響 1966年 放送用録音 1962年のウィーンフィルとのライヴはルツェルン音楽祭でのライヴで第2,3楽章のみが残っています。1966年はシューリヒト晩年のステレオ録音。 ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 (1953年6月 ウィーン スタジオ録音 ) 英DECCAへのスタジオ録音。交響曲第2番の初演をおこなったウィーンフィルとしてはカラヤンの1949年録音に次ぐものです。 飄々とした音楽運びの中に漂うほのかなロマンの香り、のびやかに良く歌う幸福感に満ちた名演でした。 第一楽章冒頭のゆっくりとしたテンポの中に響くウィンナホルンの音からしてロマンティク。よく歌いながら60小節から自然な加速。第2主題直前ではテンポをわずかに落としながら絶妙のタイミングで第2主題に入っていきます。 第2主題はさらに遅いテンポで始め、木管楽器と弦楽器とのの8分音符の美しい掛け合いを聴かせながら135小節のクレシェンドからのffを強烈に響かせ、その後のチェロとコントラバスのテーマの動きを力強く表現。続くシンコペーションのスピード感も見事で、音楽は大きな広がりを見せながら展開していきます。 225小節の大きなブレーキの後のブラスの咆哮。段階的にギアチェンジしながらの加速も自然。270小節の再現部でテンポを落とし、フルートとクラリネットのさりげない下降音型にも美しいロマンの香りが漂います。 第二楽章の冒頭から大きな音量の毅然たるチェロの歌で開始。 ホルンソロとヴァイオリンの掛け合いも美しく、中間部49小節からのテンポは遅めですが、弦楽器の三連譜の最初の音にアクセントをつけて前進感を演出。 第三楽章は速めのテンポで平穏な田園風景が広がります。 軽く乾いた枯れた独特の音はシューリヒトならではのもの。 194小節の主題再現部のヴァイオリンのドルチェの表情も印象的。 第四楽章序盤、23小節からの一拍めのティンパニに大きなアクセントを付加し猛然とダッシュ。その後142小節からフルートとオーボエの小鳥のさえずりのような音型を強調し、自然にテンポを落としつつ冒頭に回帰するところなど凄い名人芸です。245小節の再現部は速めのテンポ。 コーダにはさりげなく突入、コントラバスとチェロを暗い音色で強調しながらヴァイオリンを次第にクレシェンドさせた頂点でトランペットを輝かしく強奏、大きなクライマックスを構築します。 音楽のヴォルテージはますます上昇、最後のトロンボーンの強奏も圧倒的な存在感で響いていました。 指揮者とオケの間に盤石の信頼感の存在を感じさせます。 猛者揃いのウィーンフィルに、テンポや強弱の変化を細かな部分まで徹底させて自在にドライヴ。それでいてオケの自発性も尊重しながらごく自然に本気させているのが凄いと思いました。 今回聴いたのは70年代に国内盤で出たMZ番号のLPと、ディスクユニオンが英DECCAの初期LPから製作した重量LP。そしてキングレコードが出していた国内盤CDです。 ディスクユニオンのLPは音がまとまりすぎ、MZ規格のLPは録音レベルが低く、この3者の中ではキングのCDが良い音でした。 (2012.12.19) |