・シュトゥットガルト放送交響楽団 (1966年3月16日 放送用ライヴ録音 ) シューリヒト晩年のライヴ。貴重なオリジナルステレオ録音です。 常に一定の遅めのテンポ感が全体を支配。 一歩一歩着実に歩むような飄々とした音楽運びの中で、知らず知らずのうちにシューリヒトのペースに巻き込まれるような、懐の深い大きな広がりの感じられる演奏だと思います。 86歳のシューリヒト翁の棒はさすがに安定を欠いていたようで、第4楽章178小節のフルートとチェロのリズムの掛け合い部分のように、テンポの速い複雑な部分でアンサンブルの乱れが散見されます。 第一楽章冒頭からゆっくりとした開始。テンポの大きな変化はなく素っ気ないほどです。83小節からの第2主題もそのままのテンポが他の録音と異なるところ。 シンコペーション部分もあたかも走り出そうとするオケを抑えているかのように指揮がブレーキをかけています。 272小節からのクラリネットとファゴットのパッセージから音楽は大きく落ちていき、続く275小節からのブラスの咆哮で巨大な頂点を築き上げていました。 音楽は寄せては返す大海原の趣、375小節から加速した後、440小節の下降音型の部分でゆっくり減速していきコーダは平和と安息の世界。 第二楽章の神秘的なチェロの音が印象的です。冷静にして沈着でありながら87小節からの高揚感も見事。92小節のコーダで多少早め、97小節からの終結部では2番ホルンの三連符が全体のテンポを決めていく中で、ティンパニに切り替わったところから微妙に減速。 第三楽章のアレグレットも遅めのテンポ。スケルツォ相当のプレスト部分も力を抜き軽くいなしていきます。下で支えるチェロのピチカートも雄弁 第四楽章も冷静でありながらもコーダまでテンポは大きく変わらないものの、77小節の第2主題でわずかにテンポは落ちます。ガツンとしたフォルテが印象的。 音楽は内部で次第に熟成、コーダの388小節で微妙にタメをつくり地の底から湧きあがるように大きく爆発し白熱の終結を迎えていくのはお見事。 素朴でありながら爽やかで深く純化された神秘的な響きがなんとも独特で、オケを完全に自分の音に染めているのが凄いと思いました。 今回聴いたのはスイスArchiphonと伊ORIGINALSのCDで、シューリヒトのライヴとしては珍しくステレオ録音。 ステレオ感は明確ではありませんが自然な響きとシューリヒト独特の枯れたような音を良く捉えていると思います。 Archiphon盤がこの演奏の初出で、この後にいろいろな海賊レーベルから出てきました。 伊ORIGINALS盤も一連の海賊盤と同列ですが、Archiphon盤の最初の部分で聞こえたピーというノイズは聞こえませんでした。 現在はSWRアーカイヴ収蔵の正規音源を使用したHENSLERから同じ演奏が出ています。 私は未聴ですが音の状態は、Archiphon盤と同程度かそれ以下というネット上の意見がありました。 http://homepage2.nifty.com/bis-katsumi/schuricht/001.html http://dokuoh.blog35.fc2.com/blog-entry-69.html なおArchiphon盤にカップリングされている「パルシファル」前奏曲は神々しいばかりの大変な名演でした。 (2013.02.01) |