「ブラームスの1番を聴く」14・・・・初期の録音 ベーム
「カール・ベーム(1894 - 1981)」

オーストリアのグラーツ生まれ、ブラームスの友人マンチェフスキーに作曲を学ぶかたわらグラーツ大学で法律を専攻し博士号を取得。
第一次世界大戦に輜重隊伍長として従軍するも馬に蹴られて重傷となり除隊。
その後グラーツ歌劇場の練習指揮者となり、バイエルン、ダルムシュタット、ハンブルク、ドレスデンといったドイツの主要な歌劇場の指揮者を歴任、1943年にはウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任しています。

ベームはオペラの現場叩き上げの典型的なドイツのカペルマイスターですが、コンサート指揮者としてもブラームスやモーツァルトのみならず、親交のあったR.シュトラウスにも数々の名演を残しています。

カール・ベームはブラームスを得意とし、キャリアの比較的初期から録音をおこなっています。

第1番の録音は、3種のスタジオ録音のほか今まで音盤として発売されたライヴ録音は10種を数えます。

・1944年11月   ウィーンフィル     スタジオ録音
・1950年      ベルリン放送響
・1951年      シュトゥットガルト放送響
・1954年      ウィーンフィル
・1959年      ベルリンフィル     スタジオ録音
・1963年      ケルン放送響
・1969年      バイエルン放送響
・1974年      チューリッヒトーンハレ管
・1975年3月17日 ウィーンフィル     ライヴ録音 東京
・1975年3月22日 ウィーンフィル
・1975年5月    ウィーンフィル    スタジオ録音
・1975年6月    ウィーンフィル
・1976年      ケルン放送響




・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
(1944年 11月18,19日 ウィーン  スタジオ録音)

第二次世界大戦下、ベームのウィーン国立歌劇場音楽監督時代の独エレクトローラのスタジオ録音で、フルトヴェングラー指揮の有名なウラニアのエロイカの録音はこの一か月後のものです。
1944年11月といえばドイツの敗色が濃く、8月には連合軍がパリに入場ウィーンも空襲にさらされ始めた時期です。翌年3月の大空襲では国立歌劇場が焼け落ちました。

手持ちの1944年4月30日のクレメンス・クラウス指揮のウィーンフィルのプログラムを見ると、ハイドンの交響曲第100番「軍隊」、カール・プロハスカ作曲の男声合唱とオーケストラ、オルガンのためのカンタータ「砲兵隊」、そしてベートーヴェンの「運命」という、戦時ならではの曲目が並んでいます。
http://harumochi.cocolog-nifty.com/horn/2012/02/post-b766.html


このブラームスには「ウラニアのエロイカ」のような緊迫感は感じられませんが、音楽にどっしりとした安定感があるのが素晴らしいと思います。

第2,3楽章にはウィーンフィルならではの優雅さが前面に出ているように聴こえますが、
第4楽章のゆっくりと歌う主題からは諦めにも似た悲壮感が漂います。

1938年にオーストリアはドイツに併合され、すでに多くのユダヤ系の楽員が団を去っています。1937年の、同じウィーンフィルを振ったワルター指揮の同曲の演奏に比べるとオケの技量は明らかに落ちているように聞こえます。

戦争が悲劇的な終末に向かう先行きの見えない中で、独エレクトローラにはこの録音を
発売できる目論見はあったのでしょうか。
そして楽団員はどのような気持ちで演奏していたのでしょうか。

このCDには1949年録音のヨハン・シュトラウスのワルツ「南国のバラ」その他のウィンナワルツがカップリングされています。

ブラ1フィナーレの劇的な終わりの後、曇り空が晴れたような明るく平和な響きでワルツが始まった時に「はっ」としました。

このCDの製作者が考えていたかどうかはわかりませんが、戦争と平和の対比がこれほど際立ったアルバムも珍しいと思いました。

第1楽章序奏では艶のある絹のようなウィーンフィルの弦楽器の音が鳴り響きます。
リピートなし。
寂しさ漂う中にオケの集中力が感じられ、ホルンの強奏も見事に決まっています。
92,93小節の1番フルートはオクターヴ上げ、227小節の木管にホルン付加。
バランスの良い響きの中に充実した音楽がホール全体に鳴り響いています。


第2楽章はゆっくりじっくり歌い上げた甘くロマンティックな雰囲気で郷愁を誘います。
ヴァイオリンソロがまさに入魂の演奏。
このころのウィーンフィルのコンマスはバリリ、マイレッカー、シュナイダーハン、ボスコフスキー。誰の演奏だったのでしょうか?

第3楽章は快速テンポ、ウィンナホルンの美しい響きと散りばめられた木管の音の美しさが印象的。リピートあり、

第4楽章、アルペンホルンの部分はゆっくりたっぷりとウィンナホルンの美しい響き。
続く主題はかなりゆっくりとした歌い、269,270小節のホルンに木管を重ねています。
さらに276−280小節ではホルンを木管に重ねて大きな効果を上げていました。

後半は雄渾に盛り上がり、ピウアレグロに入った3小節目から段階的に加速。
輝かしさよりも悲劇的な様相で盛り上がります。


ベームはその後もブラ1の名演を残していますが、この時期すでに解釈は確立していたようです。

今回聞いたのは80年代に新星堂が復刻したCDです。

川合四朗氏所有のSPからの復刻で、ホールトーンを効果的に捉えた良い音ですが、
盤面によってピッチが微妙に変動し、ウィーンフィルの音としてはピッチが低いように感じました。
(2016.05.24)