「ブルーノ・ワルター」(1876〜1962) ワルターのブラームスの交響曲第1番は、3種のスタジオ録音による全集のほか2種のライヴ録音があります。 ・ウィーンフィル 1937年 スタジオ録音 ・NBC響 1939年 ライヴ録音 ・ロスアンジェルスフィル 1947年 ライヴ録音 ・ニューヨークフィル 1953年 スタジオ録音 ・コロンビア交響楽団 1959年 スタジオ録音 ・ ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 (1937年5月 ウィーン、ムジークフェライン スタジオ録音) ナチの台頭によりワルターがオーストリアに移住した時期の録音。 この翌年オーストリアはドイツに併合されワルターはフランスに亡命します。 美しい中に荘重にして厳かな雰囲気の漂う演奏でした。 全編に漂う重い雰囲気は鈍い録音のためかもしれません。 最後に書きますが、今回聴いたLPとCDで演奏の印象が全く異なります。 以下はCDを聴いた印象です。 寄せては去る大波の如く音楽は大きく揺れます。 特に第1楽章後半と第4楽章は素晴らしい盛り上がりでした。 第1楽章リピートなし、第3楽章リピートあり。 第1楽章序奏は大きく流れ落ちる大滝のようですが、ティンパニはほとんど聞こえません。 弦楽器の正確な動きの上に木管楽器群が心地良く乗り、重い中にもスピード感があります。 495小節からのmeno allegroからは非常にテンポが遅くなります。 終結部のコントラバスは深い響。 美しい第2楽章は速めのテンポ。オーボエ、クラリネットソロが美しく、下で支える弦楽器はふわりとした感触。 弦の高音部の伸ばした音の透明にして艶のある響きが印象的。 50小節あたりからのテンポは大きく揺れて、66小節の大きなパウゼが大きく効いています。 44年録音のベームと同じオケですが、明らかにこの時点のウィーンフィルの方が上質です。 90小節からのヴァイオリンソロとホルンソロとの一体感などはすごいものです。 第3楽章はクラリネットにかぶるオーボエのバランスが絶妙。 ホルンの倍音も美しく、19小節めのヴァイオリンのメロディでは大きなヴィヴラートをかけて85,86小節のスラーなしを強調。主題回帰の前のピチカートは強め。 第4楽章序奏のピチカートは落ち着いた雰囲気。A tempoの入り前の間はなし。 アルペンホルンの部分ではウィンナホルンの雄大で太い音が素晴らしく、ここでの2番ホルンの下支えが見事。 主題部分は落ち着いた風格が漂い、木管群に受け継いだ部分でルバートをかけていました。弦楽器のアクセントはテヌート気味。 90小節あたりから演奏は風雲急を告げて大きく盛り上がります。 101小節からさらなる急加速。 軽快に進む中で、主題回帰の部分ではスピード感を保ったままで悠然と歌い上げます。 269−270小節のホルンの加筆は、木管パートを1オクターヴ下げて加える珍しいもの。 330小節からの弦楽器の早いパッセージの連続からさらに加速。 375小節のトロンボーンの入りからじわりじわりと盛り上がり、終盤は怒涛の進軍。 壮大な盛り上がりの中で終結。 403小節のトランペットのpをfに改変していました。 今回聴いたのは、東芝EMIが出していた「ワルター、ウィーンフィルの芸術」のセットものLP10枚組と、著作権切れのヒストリカル録音集めたHISTRYレーベルのセットものCDです。 LPはGRシリーズとは別にカッティングされたもの。 宇野功芳氏のLPでの解説文には素晴らしい復刻と書いてあります。 HISTRYのCDは出所不明の音源をCD化したもので、多少の残響と横の広がりを付加しています。 2種を聴いた印象はかなり異なり、演奏の印象を全く変えてしまうほどです。 意外なことに音は圧倒的にCDが良い音でした。 LPは力のない「なよっ」とした音で、解説の宇野功芳氏の女性的な演奏である、という言葉が納得できます。 一方のHISTRYのCDは、ムジークフェラインの豊かな残響を生かしながらも細部まで明瞭、第4楽章のウィンナホルンの雄大な響きなど素晴らしい音で迫ってきます。 フォルティシモも力強く鳴り響き、女性的というよりも男性的な雄渾な印象です。 HISTRYの一連の復刻は杜撰なものが少なくありませんが、このワルターのブラームスの復刻は傑作だと思います。 (2016.06.13) |