「ブラームスの1番を聴く」16・・・・初期の録音 トスカニーニ
「アルトゥーロ・トスカニーニ(1867〜1957)」
ミラノ郊外パルマの貧しいが楽天的な仕立屋の息子として生まれたトスカニーニ。
天才的な記憶力と統率力を持ち、ヴェルディの歌劇「オテロ」の初演にチェリストとして参加。指揮者としては歌劇「ラ・ボエーム」、「道化師」「トゥーランドット」など多くの歌劇や管弦楽作品の初演を振った音楽史上に残る大指揮者の一人。

ブラームス作品の最も忠実な理解者だったフリッツ・シュタインバッハが1909年にブラームス・チクルスをおこなった時に、トスカニーニはミュンヘンまで聴きに行きました。
シュタインバッハの演奏に大きな感銘を受けたトスカニーニは、この時の感激をいろいろな機会に周囲の人々に語っています。

今まで発売されたトスカニーニの交響曲第1番録音は、以下の7種があります。

・1937年    NBC響       放送用ライヴ 
・1940年    NBC響       演奏会ライヴ
・1941年    NBC響       演奏会ライヴ 
・1943年    NBC響       演奏会ライヴ
・1951年11月3日    NBC響  演奏会ライヴ映像
・1951年11月6日    NBC響  放送用ライヴ RCA
・1952年10月 フィルハーモニア管  演奏会ライヴ


・NBC交響楽団
(1937年12月25日 ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H、 ライヴ)

トスカニーニがNBC響を振った初めての演奏会の記念碑的ライヴ。

この演奏会の前半は、ビバルディの合奏協奏曲作品6−11、モーツァルトの交響曲第40番も演奏され、全ての録音が残っています。
     
この録音は今のところトスカニーニの指揮で聴ける最古のブラームスの交響曲第1番演奏です。

名人揃いのオケを、ロジンスキーが徹底的にトレーニングして臨んだ演奏会。

個人技は非常に優秀、合奏の音程もバランスもピタリと決まった優秀オケですが、トスカニーニの強烈な集中力の中での即興的に動く棒に過剰に反応しすぎているきらいもあり、第2楽章などなんともいえないもどかしさを感じました。

第1楽章リピートなし。第3楽章リピートあり。

第1楽章冒頭は速めの快適なテンポで曲は始まります。
歌わせ方に幾分ポルタメント気味なのが時代を感じさせ、序奏が終わった直後の38,39小節はかなり遅いテンポ。

続く主部は気高く高潔、緊張感に満ちて正確なビートの下で音楽は不動のテンポで進行していきます。

それでいて全編に流れる強靭なカンタービレが、縦にきっちり振るビートというよりも横に棒を流しているようにも感じられました。
第1楽章後半での運命の動機のタタタターンを繰り返し叩きつけるように強調。
終結部の減速感も絶妙。

第2楽章17小節からのソロオーボエは、10小節めのヴァイオリンと同じようにスタッカート。
106小節からのエスプレーシヴォ部分で、ヴァイオリンを幾分遅らせて演奏させていました。

第3楽章もスピーディな一定のテンポ。
終結部のpiu tranquilloで減速していき、フィナーレを予見させるテンポ感で終わる最後の3つの音の動きが見事。

第3楽章の最後の音から連続するテンポ感で第4楽章が始まります。
序奏でのトスカニーニの感情移入がそのまま素直に音になっていて、クレシェンド部分ではセカンドヴァイオリン、ヴィオラの内声部をぐっと強調。

アルペンホルンの荘重な響きに続くアレグロ・ノン・トロッポの主題も遅めのテンポでものものしく歌わせます。
徐々にスピードアップして気づかぬうちに相当な速さに到達。

269,270小節の木管にホルンを重ねています。
主題回帰の290小節に至る部分は猛烈に盛り上がり、終結部の360小節からの金管楽器によるコラールと407小節と447小節にティンパニを盛大に加筆。

このティンパニパートの加筆は、その後他のアメリカのオーケストラに大きな影響を与えています。

70歳の年齢を感じさせない若々しい動きと自由なフレージングで高性能のオケをドライヴしたスリリングな演奏でした。


手持ちはHISTRYレーベルから出ていたセットものの1枚。
1937年の録音年相応の音です。多少音が高音寄りで粗い響きが気になりました。
音が数か所飛ぶ箇所がありました。
(2016.07.18)