「ヘルマン・シェルヘン(1891〜1966)」 ベルリン生まれ、正規の音楽教育をほとんど受けずにヴァイオリンとヴィオラを独習し、 ベルリンフィルの団員にまでなった異才。 1910年指揮者に転向し、シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」をベルリン初演。 1914年リガ響の指揮者。ウィンタトゥール響、チューリヒ放送響の指揮者を経て、客演の日々を過ごし、最後のポストは北西ドイツフィルの指揮者。 シェルヘンの経歴を見ると、スター街道とは無縁の、どちらかといえば日の当たらぬ裏街道を歩んできた指揮者と言えそうです。 録音は、1950年代にウェストミンスターレーベルに、ガブリエリなどの中世ものからバッハのカンタータ、ベートーヴェン、マーラーなど膨大な録音があり、その特異な演奏スタイルには独特の魅力があります。 シェルヘンのブラームスの交響曲録音は、このスタジオ録音の第1番と、ライヴでは晩年のルガーノ響きとの第3番のみです。 ・ ウィーン国立歌劇場管弦楽団 (1952年10月 ウィーン コンツェルトハウス モーツァルトザール スタジオ録音) ウェストミンスターレーベルへの録音。 50年代のアメリカのマイナーレーベル録音に良く見かけるウィーン国立歌劇場管弦楽団の実体は、いわゆるウィーンフィルの母体であるウィーン国立歌劇場のメンバーとは限らず、国民劇場(フォルクスオパー)のメンバーが主体であった場合も多かったようです。 そのため、録音の度にメンバーが固定せず水準にもバラつきがありました。 この演奏はオーボエやホルンのウィーン風の典雅さのある独特の音色に加えて弦楽器も厚みがあり、録音に聴くウィーンフィルの音に近いものです。 フィナーレ終盤で猛烈に追い上げますがどこか冷めているのがシェルヘンらしいとはいえます。 第一楽章冒頭は快速の序奏、重厚な響きの中にスピード感を兼ね備えた素晴らしい始まりです。 9小節目のフォルテはあっさり終わらせて主部に入ってもそのままのテンポ。 細かなクレシェンド、デクレシェンドも精密に再現。 リピートなし。 快速に飛ばした中での充実したオケの響きが印象的。 中でもウィンナオーボエの独特の音が美しく響きます。 Allegro前の静かで自然な減速具合が実にお見事。 70小節目あたりからチェロ、オーボエ強調。 200小節からのコントラバスと木管楽器のバランスが良く、 290小節あたりからテンポを落として「運命」の動機を不気味なほど強調。 やがて加速。 じわりじわりと緊張感を高めていきますが、コーダの始まりのAllegroからホルンが不気味につぶやく中で極端にテンポを落とすのは幾分唐突。 遅めの第2楽章で聴かれるウィンナオーボエの息の長いソロはかなりの名人。 50小節めから加速。65小節はじめからのティンパニは67小節の途中でなぜか消滅。 第3楽章も遅いテンポ。リピートあり、 クラリネット、オーボエのソロが美しく、中間部では強引なほど緊張感を煽り立てます。 第4楽章序奏のアダージョはかなりゆっくりとした開始。 ピチカートは重く、13小節めのトランペットはフォルテピアノ。 アルペンホルンの響きは存在感が薄く雄大さは感じられませんでした。。 主部も遅く始まりますが自然な加速でAllegroへ到達。 ロマンティックに歌いながらしだいに加速。 268小節の木管にはホルンを重ねる当時一般的な加筆有り。 終結部ではよく聴かれる286小節めのタメはなく、 テンポそのまま怒涛の終結部へ一直線。 Piu Allgroからは、猛烈な速さで情熱的に盛り上がりますが終結のブラスのコラールでもテンポは落とさずあっさりと終わります。 直裁でストレートタイプの演奏で、音楽にエネルギーが満ちている瞬間もあるものの 過激な演奏が少なくないシェルヘンにしては意外性はありません。 借りてきた猫のような大人しい演奏でした。 今回はナクソスのライヴラリーを聴きました。 ウエストミンスター原盤のLPの板起こしのようですが音は比較的まとまっていました。 (2017.09.04) |