「ブラームスの1番を聴く」6・・・・初期の録音 ワインガルトナー
「フェリクス・ワインガルトナー(1863 - 1942)」

クロアチア生まれ、リストとライネッケの教えを受け、1891年に27歳の若さでベルリン宮廷歌劇場総監督。1908年にはマーラーの後任としてウィーン宮廷歌劇場の総監督、ウィーンフィルの常任指揮者を歴任。
1937年に来日し新交響楽団(現在のN響)を指揮しています。

ワインガルトナーが名声を確立した時ブラームスはまだ存命で、ブラームスはワインガルトナーの演奏を実際に聴いて非常に高い評価を与えています。

ワインガルトナーのブラームスには交響曲4曲すべての録音があり、第1番には3種の録音があります。

・1923年        ロイヤルフィル  スタジオ録音(アコースティック録音)
・1928年        ロイヤルフィル  スタジオ録音
・1939年        ロンドン交響楽団 スタジオ録音 


・ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団
(1928年4月11,12日 ロンドン、ウエストミンスター、セントラルホール
 スタジオ録音)
ワインガルトナー2度目の録音。前回はマイクロフォンを使わないアコースティック録音でした。

ここでのロイヤルフィルは、1918年にロイヤルフィルハーモニック協会が設立した
オーケストラで、1943年にビーチャムが私費を投じで創設した団体とは別団体です。

なおこのオケは1931年に解散し、1933年に創設されたロンドンフィルの母体にな
りました。

第1、3楽章のリピートなし。

すっきりとした速いテンポの中に清潔感の感じられる格調高い名演でした。

わずかなテンポの変化も自然で柔軟、重さは感じられませんが馥郁と香るロマンティックな雰囲気もあり、聴いた後に爽やかな充実感が残ります。
第3楽章のピチカート指示のチェロを、全てアルコで弾かせていたのには驚きます。
このような解釈は初めてです。前半のコントラバスもアルコです。

なお自筆譜ではピチカート指示が薄い鉛筆で書いてあります。


第1楽章冒頭のティンパニがはっきり聞こえないのが残念。
速いテンポの中で音楽は迷いもなく一直線に進行。
多くの演奏で聴かれる序奏が終わる28小節あたりの減速はありませんでした。

ヴィヴラート多めの弦楽器に軽い響きの中で横に流れる音楽。
147小節が欠落しています。
450小節のホルンパートにトランペット付加。
最後の小節のピチカートはpでなくfで終止。

第2楽章のホルンのゲシュトップ指示は開放で吹かせています。
弦楽器のすり寄るようなポルタメントが印象的。
オーボエソロを裏で支える弦楽器のリズムの扱い方が独特。
106小節のエスプレーシボに入る直前の、テンポを落としながらの木管群の力の抜き方がなどうまいものです。
最後の2小節で突如の加速。


最初にも書きましたが第3楽章最初のチェロがピチカートでなく、アルコでのこぎりのようなギコギコとした音で動いていています。
その結果、音楽が異様にギクシャクしたものになっていました。

リピートのあと再現部に入る直前の111小節からの4小節間も弦楽器は全部アルコで弾かせています。

自筆譜の指定は明らかにピチカートです。

この部分ではピチカートよりも力強く劇的な効果を生んでいました。
続く冒頭再現のチェロも同じくピチカートなし。

第4楽章冒頭のポコ・アダージョは淡々とあっさり開始。
アルペンホルンのこだまも速く主部も速め。ここでのチェロバスの動きが特徴的です。

80小節目から加速、木管の繰り返しでさらに加速しますが、これはちょっと急ぎすぎで不自然。

主題再現の直前、183小節の1拍めはフォルテとし、229小節からさらに加速。

ここのテンポの速め方は唐突ですが、終盤に向けて徐々にテンポを上げて緊張感が高まるのは良いと思いました。
速めコラールのあとの417小節から突然テンポが落ちていき荘重な終結。

聴いた後に、スタイリッシュでぱりっとした古い時代の英国紳士の白黒写真を見るような印象を持ちました。


今回聴いたのは、新星堂が90年代にワインガルトナーの録音をまとめて出したシリーズもののCDと、KOCHが出していた外盤CDの2種です。

ともにSP盤からのCD復刻で、使用したSPのマトリックス番号も同一ですが聞いた印象はかなり異なりました。


同じ演奏にもかかわらず各楽章で20〜30秒ほど演奏時間が異なります。

新星堂盤の方が短く自然とピッチがKOCH盤より高くなっていました。

新星堂盤で聴くと速いテンポで一気に走り去るような演奏ですが、第4楽章では不自然な速さを感じる瞬間があります。

一方のKOCH盤はテンポ設定と音楽の流れは自然に感じられたものの、極めて微妙ではありますが、ピッチの低さが気になりました。

A音の標準が440Hzとされたのは1939年のロンドンでのこと。
それ以前は一概には言えないものの多少低かったようです。
(ウィキペディアには1939年以前は、1859年のパリでの会議と1885年のウィーンでの会議で定められたA = 435 Hzを標準としていた)
と書いてありますが出典は不明。
http://www.coastaltrading.biz/img/%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%94%E3%83%83%E3%83%81%E3%81%AE%E5%A4%89%E9%81%B7.pdf

なお感想の主な部分は新星堂盤です。

音はKOCH盤が鮮明でした。SP盤の復刻の難しさを痛感した1枚。




(2015.10.24)