「ヘルマン・アーベントロート(1883 - 1956)」 フランクフルト生まれ、モットルに師事。エッセンの音楽監督を皮切りに、フリッツ・シュタインバッハの後任としてケルン・ギュルツニヒ管弦楽団の常任指揮者、ケルン音楽院長。ベルリン国立歌劇場、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、ライプツィヒ放送響などの常任指揮者を歴任。 アーベントロートは、ブラームスの友人フリッツ・シュタインバッハから直接教えを受け、早くからブラームスの録音を行っています。 ウォルター・フリッシュ著の「ブラームス、4つの交響曲」の中では、アーベントロートの録音をシュタインバッハの解釈にもっとも近いものとして紹介されています。 1955年録音のTahra盤にはアーベントロートのブラームス録音のディスコグラフィーが載っていて、交響曲第1番は以下の録音が記載されています。 ・ロンドン響 1928年 スタジオ録音 ・ベルリンフィル 1941年 スタジオ録音 ・ライプツィヒ放送響 1949年 ライヴ録音 ・ベルリン放送響 録音年不詳 チェコスプラフォンから発売 ・ベルリン放送響 1955年 ライヴ録音 ・バイエルン国立管 1956年 ライヴ録音 その他1952年のライプツィヒ放送響とのライヴもあるようです。 ・ロンドン交響楽団 (1928年3月20日 ロンドン クィーンズホール スタジオ録音) アーベントロートのケルン市の音楽監督の時代の演奏。 この頃のアーベントロートはロンドン響に定期的に客演していました。 前年には同じロンドン響を振って第4番の録音をおこなっています。 http://www.numakyo.org/cgi-bin/bra4.cgi?vew=42 暗く重く鈍重な動きと響きで憂鬱がそのまま音になっているような演奏でした。 楽譜の指定を無視した振幅の幅が大きな独特のテンポ設定が特徴です。 ゆっくりとした走り始めからしだいに加速し、やがて猛烈なスピードに到達するかのような蒸気機関車のような音楽運びがワンパターン化していて、特にフィナーレで顕著。 古い時代の横綱の土俵入りのような荘重さが時代を感じさせました。 第1楽章リピートなし。第3楽章リピートあり。 第4楽章の最初の動きを聴く限りでは、使用楽譜はブライトコップ版ではなく古いジムロク版を使用しているようです。 第1楽章の開始は標準よりも速めのテンポ。 弦の下降音型のポルタメントが特徴的です。 155小節目あたりで大きくテンポを落とし、リピート前の177小節と同じ繰り返しの459小節からのホルンの跳躍にトランペットを重ねていました。 次第に盛り上がる262小節からのティンパニはカットしているようです。 ここでティンパニのフォルテが被ると、当時の録音機器の限界で他の楽器がマスクされてしまうためかもしれません。 478小節から極端にテンポ落として嘆くように歌う弦楽器が印象的です。 第2楽章も近寄りがたいほどの憂鬱で遅く重い開始。 66小節からの最初の部分が再現されるあたりから速めて標準的な速さとなります。 109小節のソロヴァイオリンがレガート多用で歌います。 第3楽章は重い二つの楽章から一転、快適なほど良いテンポ。 あたかも前の2つの楽章の湯鬱さを払拭するかのようです。 中間部クラリネットソロあたりからかなり速めていました。 第4楽章はじめのstring poco a pocoはさほど速めず、12小節めも冒頭Adagio気味ではあるもののかなり自由な動きです。 20小節めは多少速めていてさらに自由な動きなので、a tempo 指示のブライトコップ版ではなくin tempo指示のジムロック版を使用しているように思えます。 アルペンホルンの響きのホルンに入る直前のティンパニの伸ばしが短めで、ホルンがかなり唐突に入り、ホルン動きは速いものの続く金管のコラールは極端に遅いテンポで重厚感を演出。主部も遅く始まります。 木管が繰り返すあたりから徐々に加速。92小節のanimato(元気に。生き生きと)から一気に速くなり、185小節からの主題再現部は再び遅いテンポに回帰。 ブラームスの没後30年が経過した時点の録音ですが、今から90年近く前の録音です。 この90年の時間の経過は大きく、演奏のスタイルに現代の演奏から比べるとかなりの距離感がありますが、問答無用の有無を言わさぬ説得力が感じられました。 このスタイルがブラームスが最も高く評価したフリッツ・シュタインバッハの解釈から始まる、マイニンゲンの伝統なのでしょうか。 http://sakaiyama.jp/conduct_brahms.html 今回聴いたのはビダルフが復刻したCDです。90年ほど前の録音とは思えぬほど良い音でした。 (2015.12.05) |